今回は、気管内挿管や気管切開に関連して、医師の過失が認められた事案を2件ご紹介します。
No.424の事案で、病院側は、患者の病態急変(呼吸困難で喉頭部の浮腫のために気管内挿管が困難な状態)が夜間の外来で突然起こったものであり、当直医のほかには、看護師しかいないという状況や、気管切開に伴う出血などの合併症を考えると緊急気管切開を行うという決断はできず、気管内挿管による気道確保の方が安全であると判断した当直医に過失はないと主張しました。
しかし、裁判所は、当該病院は第二次救急病院であるから、緊急時の二次救急処置に関して、当直医及び看護師には高度の技術が求められていたというべきであるし、本件処置室には当直医のほかに3名の看護師がおり、気管穿刺又は気管切開に伴う出血に対応することもできたと認めるのが相当であるとして、病院側の主張を採用しませんでした。
また、当直医は、3回目の挿管(気管内挿管を試みたものの結果として食道への誤挿管)をした後、正常に気管内に挿管されているかどうか、アンビューバックで空気を逆送して、胸郭の上下の動きを確認したと証言しました。しかし、裁判所はこれを裏付けるに足りる的確かつ客観的な証拠は存在しないとして当直医の証言を採用しませんでした。
No.425の事案では、組み合わせて使用した結果、閉塞をきたし換気不全を起こした2社の医療器具が、いずれもJIS規格上の接続部に関する規程に適合し、かつ厚生省(当時)の承認を得て製造販売された製品でした。しかし、裁判所は、JIS規格の接続部規定は単に相互接続性を確保するという限度で規格を定めているにすぎず、接続時の安全性までも保障する趣旨のものではなく、厚生省(当時)の承認は個々の医療器具に対し個別にその機能を評価して行うものであって、必ずしも組合せ使用時の安全性を念頭に置いてなされるものとは限らないから、これらの医療器具が規格に合致していることや厚生省(当時)の承認があったからといって、接続時の安全性が推定されるとか、接続不具合による事故発生を予見する可能性がなくなるものではないと判示し、事故の発生について予見可能性がなかったとの病院側の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。