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No.419 「脂肪吸引手術を受けた患者の臀部に凹凸・非対称が生じたのは、医師が2回目の手術で必要以上の多量の脂肪を吸引したからだとして、病院側の過失が認められた事案」

東京地方裁判所平成8年2月7日判決 判例時報1581号 77頁

(争点)

脂肪吸引手術をした医師の責任の有無

(事案)

X(昭和36年生まれの沖縄在住の独身女性・看護師として稼働)は、昭和63年当時、雑誌に掲載されたY医師の経営する医院(以下、「Y医院」という。)の脂肪吸引手術についての記事を読んで、これを受けて痩身を図りたいと考え、予約の上、昭和63年7月19日、上京してY医院を訪れた。

Y医師の雇用するF医師は、Xを診察した上、脂肪吸引手術を受けた他の患者の施術前及び施術後の写真や手術機械の写真等のファイルを見せて、麻酔の説明、脂肪吸引手術の内容、術後の経過等の説明を行い、少なくとも手術後しばらくは腫れや痛みがあること、抜糸後の仕事には特段影響はないこと、手術によって綺麗にはなる等と述べた。

また、Xは、麻酔による危険防止のために問診票を交付され、既往歴、アレルギー体質、麻酔に対する反応について回答した。

そして、同年7月20日、Xに対して全身麻酔下で、片方の臀部について2カ所、両方で4カ所を切開して、直径8ミリから10ミリの管を挿入して、脂肪を吸引機で吸い出すという手術(本件第1回手術)が実施された。その執刀医はF医師であり、K医師が麻酔を担当し、Y医師も右手術に立ち会っていた。この手術中、Xの血圧が低下したため。脂肪を少なくとも1100cc吸引したところで手術は中止されたが、中止を最終的に決断したのはY医師であった。

Xは、翌7月21日Y医院を退院して、7月25日にY病院でF医師による抜糸を受けた後、沖縄県に戻った。

第1回手術の終了後、手術部位の痛みや腫れが治まった時点においても、Xの左臀部の脂肪が十分吸引されなかったため、左臀部が右臀部に比してやや膨らんだ形となっており、この点を気にしたXは、平成元年2月7日再度上京して、Y医院を訪れ、Y医師自身の診察を受けた。

そして、Xは、Y医師に対し、臀部の非対称や凹凸を訴えたところ、Y医師は第1回手術を血圧低下によって中断したため左臀部の脂肪の取り残しがあることや、Xの血圧が低下するためあまり多量の脂肪の吸引はできない旨を告げ、両者間ではこれについて再手術をするか、そのままの状態で諦めて再手術をしないかについては今後の様子をみて決定することとされた。

その後、Xは再度の脂肪吸引手術を決意し、沖縄県から上京して平成元年9月6日、Xは再度、Y医院に入院した。

そして、翌7日、Y医師は手術にあたってXに対して、手術の内容や術後、痛みがしばらくはあるといった説明等を行い、Xの手術部位にマーキングをする等をした。第2回手術の際の執刀医は、Y医師の雇用するM医師であったが、Yも麻酔係として立ち会うほか、同手術を指揮した。

なお、Xの身長は143センチメートル、体重は45キログラムであった。

第2回手術では、左臀部のXの脂肪の取り残しを吸引する予定であったが、結果的に、第1回手術より多い、少なくとも約1500cc(左側部位から約700cc、右側部位から約800cc)のXの脂肪が吸引された。

Xは、同年9月11日にY病院を退院して、9月13日にY病院で抜糸した後、沖縄県に戻り、第2回手術から10日程度後に看護師としての仕事に復帰した。

Xは、平成4年2月に、沖縄県から上京して東京に居住していたところ、第2回手術の終了後3年2カ月経過した平成4年11月10日にY医院に来院し、Y医師に対して臀部の凹凸及び痛みについての苦情を申し入れた。

その後、Xは、K大学病院形成外科に通院し、同病院形成外科において美容外科を担当するO医師の診察を受けた。

その際、XはO医師に対し、臀部の外観上の凹凸、非対称と本件各手術部位の感覚異常を訴えたところ、O医師は、脂肪吸引による臀部の外観上の凹凸、非対称(不均一な皮膚表面と皮膚のたるみ)を認め、これについての治療は行わなかった。また、同医師は、Xの痛みの訴えについて、他覚的所見はなかったが、神経復活剤のビタミンBを投与した。

その後、Xは再び沖縄県に戻り生活している。

Xは、Y医師に対し、2度の手術により左右臀部の凹凸・非対称が生じたことなどにつき、診療契約上の債務不履行ないし不法行為に基づき損害賠償請求をした。

(損害賠償請求)

請求額:
578万8350円
(内訳:Y病院の治療費128万5500円+K大学病院の治療費1万0750円+通院交通費34万5500円+東京での入院・通院に伴う宿泊費2万6600円+通院慰謝料160万円+後遺症慰謝料200万円+弁護士費用52万円)

(裁判所の認容額)

認容額:
101万1970円
(内訳:Y病院の治療費のうち、第2回手術に関する39万5500円+第2回手術に際する通院交通費10万8870円+第2回手術後の東京での宿泊代7600円+後遺症慰謝料40万円+弁護士費用10万円)

(裁判所の判断)

脂肪吸引手術をした医師の責任の有無

この点について、裁判所は、まず、人間の臀部の脂肪の厚みや皮膚の面積には多少の左右差は、本来存在するものであるが、証拠を総合すれば、現在、Xの臀部(及びこれに続く大腿部の一部)には、Y医院での本件各手術を受ける前はなかった、一般的に存在する臀部の左右差を超えた外観上の凸凹・非対称(不均一な皮膚表面と皮膚のたるみ)が存在することを認めることができ、この点においてXの美容整形の目的が達成されていないものというべきであると判示しました。

そして、Xの臀部に凹凸等が生じたのは、第2回手術の目的が、Xの左臀部の脂肪の取り残しを吸引することにあり、かつ、脂肪の吸引量が増加すればするほど不正面の発生する可能性が高いのであるから、Y医師やY医師が雇用する医師は、必要以上の多量の脂肪吸引をして凹凸等が生じないように注意すべき義務があるのにこれに反して、第1回手術より多量の約1500ccの脂肪を吸引した結果というべきである(臀部の脂肪量に個人差はあるとはいえ、Xの身長は143センチメートル、体重は45キログラムという小柄な女性であり、左臀部の取り残しの脂肪を吸引するという目的からして、脂肪吸引量が多すぎたことは否定出来ないものと解される。)と判示しました。

以上から、裁判所は、上記(裁判所の認容額)の範囲でXの請求を認め、その後判決は確定しました。

カテゴリ: 2020年11月 9日
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