今回は、産婦人科医の不法行為責任が認められた裁判例を2件ご紹介します。
No.416の事案で、医師は、薬剤(イトリゾール)処方時に催奇形作用の説明をしなかったことにつき、患者が初診時に結婚以来避妊していたと述べたため、その後も避妊し続けると考えたこと、患者には排卵障害があり妊娠しないと判断したことから、説明義務は生じていなかったと反論しました。
しかし、裁判所は、患者が初診時に避妊していると述べたからといって、患者が結婚している20代の女性であることからすれば、その後も避妊し続けると安易に考えるべきではないし、避妊していたからといって妊娠の可能性がないとはいえない上、イトリゾールの副作用が催奇形作用という極めて重篤なものであることからすれば、少なくとも最初に処方した時点において、患者の妊娠可能性について確認し、避妊処置を指導するとともに、イトリゾールの催奇形性作用について説明すべきであったと判示しました。また、医師が、排卵障害を理由に妊娠することはないと判断した点についても、初診時に患者から1年間で9回排卵があったことを確認していたこと、卵巣不全の治療目的とはいえ、排卵誘発剤を処方していること、実際に患者はそのころ妊娠しており、妊娠可能性のある女性であったこと、イトリゾールの上記副作用は極めて重篤であることなどを挙げて医師の反論には理由がないと判断しました。
No.417の事案では、裁判所は、胎児の死因について、医師らの主張するように、常位胎盤早期剥離に他の疾患(臍帯の辺縁・卵膜付着、胎盤の塞栓等)が複合した結果もたらされた蓋然性が高いと判示しましたが、そうであるとしても、8月4日に至るまで胎児の発育が順調であったこと、及び午前6時30分の時点ではまだ生存していたことを考慮すると、午前4時の時点で宿直医が直ちに帝王切開を決断し、帝王切開を実施するために緊急に母体を他の病院に搬送するか、又は緊急に自院で帝王切開を実施していれば、その後の措置とも併せ、胎児を救命できた可能性は十分にあったものと認められると判示し、宿直医の診療上の過失によって胎児は生存の可能性を絶たれたとものというべきであるから、宿直医の診療上の過失と胎児の死亡との間には因果関係があると認定しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。