今回は定期健康診断での過失により患者に生じた損害のうち、逸失利益が争点となった事例を2件ご紹介いたします。
No.412の事案では、患者(国際線パイロット)は、再就職後も67歳の定年まで1200万円の年収が確保されているとして、再就職後の減収分についても後遺症による逸失利益として請求しましたが、裁判所は、患者に医学的に診断されるだけの後遺症は認められず、また、再就職後の業務に本件事故が与える影響があるか否かも不確定であり、これを認めるに足りる証拠もないとして、再就職後の逸失利益は認めませんでした。
No.413 の事案では、被告(健診を実施した財団法人)は、定期健康診断時の読影は、多数の受診者を対象とし、読影者の疲労や経験によって影響を受け、フィルムサイズが小さいので、直接撮影に比べて読影が不利であり、正常と異常の境界の設定が困難であらゆる検査につきまとう特異性と感受性の妥協点を見いだすことが容易でないなどの制約と限界があると主張しました。
しかし、裁判所は、そのような状況があるとしても、読影結果を記している胸部X線検査チェック表にリンパ節腫脹、肺門部腫大という項目がある以上、この点も読影の対象となっており、読影時の医師はリンパ節腫大や肺門部腫大の所見は無かったと読影したことが認められるとして、被告の上記主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。