医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.410、411】

今回は、交通事故後の入院治療中に患者が死亡した場合に医師の過失が認められた事案を2件ご紹介いたします。

No.410の事案では、病院側(被告医療法人)は、患者遺族(原告)に対し、患者の剖検を勧めたにもかかわらず、遺族がそれを拒否したため、病院側は過失がなかったことを証明する手段を遺族らによって奪われたのであるから、遺族らの病院側に対する損害賠償の請求は信義則に反すると主張しました。

しかし、裁判所は、本件において剖検が行われなかったために患者の死因が明らかにならなかったことは否定し得ないところであるが、死因を明らかにするための剖検に対し、遺族はこれにおうじなければならないものではないし、原告らが剖検の勧めを拒否したのは、患者の死体を切り刻むのはかわいそうであるという親としての心情によるものであり、殊更に、剖検の勧めを拒否しながら、本件の訴えを提起したという事実を認める証拠も存しないし、原告らが剖検を拒んだことが、著しく信義に反し、社会通念上不当であると認めることはできないとして、被告医療法人の主張を採用しませんでした。

No.411の事案では、病院側(控訴人医療法人)は、脳障害で入院した患者に対する脳神経外科の診断及び治療としては相当であった旨主張しました。

しかし、裁判所は、病院は、ベッド数1300床以上を有し、脳神経外科、消化器内科等の診療科目を有する総合病院であり、当該疾患が専門の科目において対処が困難である場合は、他科の医師らと連絡を取ることは容易であって、対応する処置を行う人的、物的設備も完備されていると認めることができると判示しました。そして、医師が、患者の症状や治療方針等について、自己の知識や専門範囲を超えるものと判断したときは、他科に積極的に情報を提供し、これと協力するなどして治療に当たるべきものといえ、患者が脳神経外科の患者であることをもって、その治療等に限界があることをもって、その治療等に限界があるとする病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2020年7月10日
ページの先頭へ