今回は、入院中の患者に対する経過観察を怠った過失が認定された裁判例を2件ご紹介します。
No.394の紹介に当たっては、一審判決(浦和地方裁判所昭和59年10月31日判決 判例タイムズ545号241頁)も参考にしました。
No.394の事案では、医師は、患者には当時、右足関節脱臼骨折の外に、より重篤な骨折というべき大腿骨骨折が合併して発症していたのであるから、足関節脱臼骨折のみの治療をする場合と同じ程度のレントゲン撮影義務を一般の開業医に要求するのは相当でない旨主張しましたが、裁判所は、他に合併症があったとしても、足関節部について受傷後2、3週間以内に3回くらい、その後約1ヶ月毎に1回程度のレントゲン撮影を求めることが開業医に対する過大な要求とはいえないと判示して医師の主張を採用しませんでした。
No.395の事案では、裁判所は、担当医師について、(1)急性心不全による容態の急速な変化によって緊急入院した患者に対してワソラン及びインデラルを投与した過失、(2)患者の症状を過換気症候群と誤診し酸素投与を止めて紙袋療法として口にビニールをかぶせて再呼吸させた過失、(3)高齢で急性心不全及び発作性心房細動により緊急入院し、長時間にわたり呼吸苦を訴え続けていた患者に対してセレネース及びセルシンを投与した過失も認めましたが、これらの過失と患者に生じた高次脳機能障害、慢性心房細動、慢性心不全及び高尿酸血症との間の因果関係は否定し、これらの過失により患者が一時期重篤な心不全状態に陥ったことは慰謝料額の算定において考慮すべき事情になると判示しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。