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選択の視点【No.392、393】

今回は、予防接種に関して接種担当医師の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.392の事案では、担当医師は、本件予防接種に関して具体的な記憶がないとしたうえで、本件予防接種当時はいつも、問診票を見て、保護者に質問をし、被接種者全員に対し、聴診器を用いた聴診、舌圧子を用いてのどの視診をし、被接種者の顔色・挙動も診察の対象として予防接種を実施していた旨証言しました。しかし、裁判所は、当時の実施要領には、医師1人を含む1班が予診の時間を含めて1時間に対象とする人員は、種痘以外の予防接種では100人程度となることを目安として計画することが望ましい旨定められていたにもかかわらず、当該村は、145人が接種を受けた本件予防接種に関し、受付時間を1時間しか取っていないのみならず、接種担当医師は、実施要領の内容について具体的な知識を持たず、また、集団予防接種の是非を論じた論文を収載していた日本医事新報の購読もなく、最近までは厚生省(当時)、県及び村からの予防接種に関する講習や説明を、文書でも口頭でも受けておらず、副反応の発症時期、症状及び後遺症等について具体的な知識を有していなかったこと等を認定し、以上のような村の実施体制及び担当医師の予防接種に関する認識等を前提とする限り、当時の一般的な予防接種体制が整備、強化されていたことを根拠として、担当医師が本件接種の際に行ったと証言する予診内容が実際に実施されていたと推認することはできないと判示して、担当医師の上記証言を採用しませんでした。

No.393の事案では、国側は、本件において使用されたインフルエンザHAワクチンは安全性の高い不活化ワクチンであって病原体自体による副反応が起こることはなく、副反応は成分に残っている毒性によるものと考えられるから、毒性物質が体内に存在する間(通常24時間以内、遅くとも48時間以内)に発現すると考えるべきであり、本件被接種者のように予防接種から2週間程度経過した後に神経症状が発症することはないなどと主張しました。

しかし、裁判所は、不活化されたワクチンにおいても、ウイルスの化学的物質自体はワクチン中に残存しているから、インフルエンザの自然感染で発生する症状と同様の症状がワクチン接種の場合にも発生する可能性を否定しえないこと、日本でHAワクチンが使用されるようになって以降も、なお一定数の遅延アレルギー反応型の神経系の副反応の発生について報告例が存在することにかんがみれば、インフルエンザHAワクチンが遅延型アレルギーの副反応を惹起させないものであるということはできないとして国の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2019年10月10日
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