医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.390、391】

今回は、検査義務違反が認められた事案を2件ご紹介します。

No.390の事案の紹介にあたっては、原審である名古屋地方裁判所平成23年1月12日判決が掲載された医療判例解説37号123頁(2012年4月号)も参考にしました。

この事案では、患者遺族側は、平成19年1月12日の第1回内視鏡検査の所見がスキルス胃癌と他疾患との鑑別・除外診断を必要とする所見であるならば、担当医師としては、遅くとも同月15日の時点で、精密検査目的で患者を他院に転医させる措置を講ずべき注意義務があったのにこれを怠った過失があるとも主張しました。

しかし、裁判所は、平成19年当時の医療水準としては、第1回内視鏡検査によりスキルス胃癌を疑ったが、生検により癌細胞が認められなかったものの、その疑いが強い場合であっても、再度の生検(ボーリング生検に限られない)等をして診断の確定、診療方針の決定等をするのが一般的であったのであり、この時点でボーリング生検や超音波内視鏡検査を実施し、あるいは、その実施を目的として他の医療機関を紹介し、又は転医させるべき注意義務が担当医師にあったものとまで認められないとして、この点に関する患者遺族側の主張を採用しませんでした。

No.391の事案では、患者は、適切な医療行為を受ける期待権の侵害も主張しましたが、裁判所は、患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に、医師が、患者に対して、適切な医療行為を受ける期待権の侵害を理由とする不法行為責任を負うことがあるか否かは、当該医療行為が著しく不適切なものである事案について検討し得るにとどまるべきものとの最高裁平成23年2月25日判決を引用した上で、本件における医師の検査義務違反の過失については、患者の症状がてんかん発作の再発とも理解し得るものであったこと、脳梗塞を疑うべき右片麻痺の確認が意識障害や四肢弛緩のために困難であったこと、CT画像からアーリーCTサインを読影することが容易であったとはいえないことなどを踏まえると著しく不適切な医療行為であるとまでは評価できないとして、この点に関する患者の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2019年9月 9日
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