医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.388、389】

今回は、開腹手術に比べて侵襲が少ない内視鏡手術や腹腔鏡下手術における、医師の過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。

No.388の事案では、患者は、慰謝料として630万円を請求していたところ、裁判所は、患者が本件各手術後、治療を続けていたが、人工尿道括約筋埋込術を受けるまでの約2年3ヶ月の間、高度の尿失禁症状が継続していたことに悩まされており、その精神的苦痛は甚大であったこと、人工尿道括約筋埋込術後、尿失禁はほとんどなくなり、パットを当てることもなく、勤務に支障はなくなったものの、感染防止のための服薬や定期的な検診を将来にわたって余儀なくされることなど、今後も精神的不安が続くこと、患者の職種、症状経過、その他本件記録に現れた一切の事情に鑑みて、患者の慰謝料は患者主張の630万円を下らないとするのが相当であると判示し、患者請求額どおりの慰謝料を認めました。

No.389では、病院側は、担当医らが、約4リットルの温生食水で腹腔内を4回くらい繰り返し洗浄して出血、胆汁、腸液等の漏出がないことを確認しており、本件穿孔は術中には発生していなかった旨主張しましたが、裁判所は、術中は高い腹腔内圧のため明らかでなかった出血や胆汁漏出が術後に顕在化することがあることは医学的知見のとおりであると判示して、病院側の主張を採用しませんでした。

また、病院側は、患者の大腸の癒着は、開腹手術によって出血と炎症が起こり、繊維素が析出して漿膜間に癒合が発生したものであり、十二指腸の穿孔と因果関係はないとも主張しましたが、裁判所は、医学的知見によれば、十二指腸に穿孔が生ずると、胆汁性腸液が腹腔内に漏出して、腹膜炎が生じ、開腹手術が必要となるが、腹膜炎による開腹手術は、炎症性の腸管癒着を併発する場合が多いとの医学的知見があり、これと診療経過を併せ考えると、本件胆摘手術による十二指腸の穿孔と患者の大腸の癒着との間には、相当因果関係があると認めるのが相当であると判示して、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2019年8月 9日
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