今回は、患者の重大な疾患を発見できなかった医師の過失が認められた裁判例2件ご紹介します。
No.386の事案では、検査の懈怠により患者のスキルス胃癌を発見できなかった病院の債務不履行と患者の精神的損害との因果関係についても争点となりました。裁判所は、平成2年2月ないし3月ころに再度胃のレントゲン検査、内視鏡検査を行って患者の胃癌が発見され、さらに手術その他の治療により患者の胃癌を取り除く等の処置がなされた場合、患者の病状が少なくとも一時的には軽快したという可能性を否定することはできないと判示しました。さらに、平成2年2月ころに手術を受ければ、少なくとも癌による死亡時期が遅れ、患者が相当期間の余命(もっともそれは癌と闘うだけの苦痛に満ちたものであるが、)を享受することができた可能性があったと認めることができるとして、病院の債務不履行と患者が余命享受の可能性を失ったこととの因果関係が認められるのであるから、それによって患者が被った精神的損害との因果関係も認められると判示しました。
そして、裁判所は、慰謝料の具体的金額について検討するにあたって、患者は、県北において最大規模を誇り、その中核をなす医療機関である被告病院と診療契約することにより、少なくとも当時の医療水準を下回らない、適切な検査・診療を受けることを期待していたというべきところ、患者は被告病院の債務不履行によりこの期待を裏切られ、適切な検査を受けて自己の病気の原因を知り、判明した原因に応じた適切な治療を受ける可能性を奪われ、相当期間の余命享受の可能性を失ったと認められるとし、その他本件に現れた一切の事情を総合考慮して金額を300万円と認定しました。
No.387の事案(腰背部痛を訴えた患者の腹部大動脈瘤破裂を発見できず、その後患者死亡)では、医師の過失と患者の死亡との間の因果関係も争点になりました。この点につき、裁判所は、患者が診察を受けていた午前11時頃には、既に腹部大動脈瘤破裂が生じていたが、破裂様式がクローズド・ラプチャー(血腫によるタンポナーデにより生存来院する症例も少なくない)であり、バイタルサインは正常であったこと、自宅に戻った患者に再び出血が生じたのは同日午後11時以降であったこと、当該病院は、救命救急センターを設置し、第三次救急病院としての役割を担っているのみならず、腹部大動脈瘤破裂について腹部ステントグラフト内挿術を積極的に導入するなど診療態勢を整えていることからすると、本件診察において腹部大動脈瘤の破裂との診断がされていたら、緊急に手術を実施することにより、救命することができた蓋然性が高いと認められるとして、医師の過失と患者の死亡との間の因果関係を認定しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。