今回は、術後管理について病院側の責任が認められた事案を2件ご紹介いたします。
No.384の事案では、病院側は、患者が脳梗塞の後遺症で半身不随の状態にあったし、約2年程以前に意識不明の状態になったこともあり、高血圧の治療中であるという既往症の存在や、胃がんとその手術に伴う侵襲、高齢(78歳)といった事情を挙げて、術後の患者が呼吸不全を原因として死亡したことは不可抗力であると主張しました。しかし、裁判所は、患者の術後の呼吸機能や喀痰排出が適切に行われているか否かの確認・PO2の推移に注視し、その改善をはかるべく動脈血ガス分析やX線写真の早期読影による現症状の把握・O2マスクの装着、喀痰吸引器等の器具による喀痰排出操作・気管内挿管、レスピレーターによる人工呼吸の緊急措置等の検討などが実施・継続されていれば、患者の呼吸不全は起こらなかったと推認できるとして、病院側の主張を採用しませんでした。
No.385の事案では、患者の死因が確定されませんでしたが、裁判所は(1)仮に死因が糖尿病性ケトアシドーシスであったならば、インスリン治療が確立した現代では死亡率は数パーセントに低下し、診断がつきさえすれば所定の治療によりほぼ100パーセント救命・完治が可能であるから、医師らが代謝性アシドーシスの原因の究明のための努力を続けていれば、患者の死亡を回避し得た蓋然性が極めて高く、(2)仮に死因が体力の低下や低栄養状態のための急性循環障害であったならば、動脈血のガス分析の再検査をするなどして、検査数値上においても代謝性アシドーシスの状態が解消されていることを確認するまで飢餓に対する治療を含めた患者に対する入院管理を続行していたならば、血圧や脈拍数の急変等から患者の急性循環障害を事前に察知して治療ができ、患者の死亡を回避し得た蓋然性が極めて高かったとして、医師の過失と患者の死亡との因果関係を認めました。
事案紹介にあたっては、掲載誌である判例時報の解説も参考にしました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。