今回は分娩に関連して、産婦人科医師の責任が認められた事案を2件ご紹介いたします。
No.382の事案では、医師は、分娩監視記録の上からは、過強陣痛をうかがわせるものはないことを理由に、子宮破裂の切迫兆候の発見はできなかったとして、監視義務違反はないと主張しました。
しかし、裁判所は、分娩監視装置は、陣痛が始まった後に約11分間にわたり装着されたにすぎず、しかも、計測が開始された最初の4分間は、装置の装着ミスにより、胎児心拍数記録及び陣痛記録ともに判読が不能な状態であったのであり、さらに監視記録上、装置を付け替えた後に基線が上昇しているが、それも装置の装着が悪いことに起因すると考えられることを指摘しました。
そして、このように短時間の、しかも不完全に装着された分娩記録装置の記録上、過強陣痛の存在がうかがわれないからといって、アトニン-Oの投与開始から適正に分娩監視装置が装着された場合に、監視記録から過強陣痛等の切迫兆候を発見できなかったということはできないと判示し、更に、分娩監視装置を装着するほか、医師ないし助産師により子宮口の開大度、収縮輪の上昇の有無、子宮トーヌスの上昇等を慎重に監視していれば、子宮破裂の切迫兆候は早期に発見できたものというべきであると判示して、医師の主張を採用しませんでした。
No.383の事案では、胎児の父母である原告両名の慰謝料算定にあたって、裁判所は概略次のように判示して母親の慰謝料額(300万円)を父親の慰謝料額(150万円)よりも多く認定しました。
「原告両名にとって、初めての子供であり、本件は、出産直前の死亡であるから、親として本件胎児の出産に対する期待が高まっていた状態にあるものと推認できる。そうだとすると、本件胎児の死亡は、新生児が死亡した場合にも比肩する精神的損害を被ったものと認定するのが相当である。さらに、妊婦である原告母親は、妊娠、分娩における苦労や苦痛があったことに鑑みれば、その被った精神的苦痛は原告父親の被った精神的苦痛と比べて大きなものと認めるのが相当である。」
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。