今回は、内臓損傷を受けて搬送された後、死亡した患者への治療につき、搬送先病院・医師の注意義務違反・過失が認められた裁判例を2件ご紹介します。
No.368の事案では、病院側は、高所から転落した患者を救急患者として受け入れるに至った経緯について、当時満床であったことから、他の総合病院や大学病院の救命救急センター等に搬送する方がよい旨救急隊に対して回答したが、救急隊は、どこも受け入れ不可能であったこと、患者の意識などはしっかりしていることなどを説明し、とにかく頭部の状態だけでも脳外科的な診察が受けたいと要請してきたことから、担当医師において、その後の治療方針を決めるための脳外科的な診察のみを行うことを了承したにすぎず、その後の入院先については、救急情報センターで責任をもって探すとの回答があった旨主張しました。しかし、裁判所は、担当医師が患者を搬送してきた救急隊に対して、転送のために待機するよう要請していないこと、頭部のみならず腰背部や右肘、右下肢についてもレントゲン撮影を行って骨折部位がないか確認していること等に鑑み、病院側の主張を採用しませんでした。
なお、同事案の紹介にあたり、判決で「精神分裂病」と記載されている箇所を「統合失調症」に、「看護士」と記載されている箇所を「看護師」に、それぞれ変更しております。
No.369の事案では、医師側は、仮に早期に開腹手術を決断すべきであったとしても、手術の準備に2、3時間は要したはずであり、受傷後6時間以内というゴールデンタイムを優に経過してしまうので、結局開腹手術の遅れと患者の死亡との因果関係はない旨主張しましたが、裁判所は、上記ゴールデンタイムは救命のための絶対的な限界時間ではなく、これを経過しても可能な限り早期に開腹手術をすれば、心筋梗塞を発症する可能性は減少したと認められるから、開腹手術の遅れと患者の死亡との間の因果関係を否定できないと判断しました。
なお、同事案の紹介にあたり、判決で「抹消血液検査」と記載されている箇所を「末梢血液検査」に変更しております。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。