医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.362、363】

今回は、手術の適応判断に関する医師の過失が認められた高裁判決を2件ご紹介いたします。

No.362の紹介にあたっては、一審判決(松山地裁平成15年9月16日判決・判例タイムズ1200号258頁)も参考にしました。

No.362の事案では、控訴人病院側は、患者に施した一連の心蘇生術の手技は、ACLS(救急医学)マニュアルに定められた救命処置で、適切なものであるし、一方、PCPSによる心肺蘇生法は有効性、有用性、有益性が確立していないと主張しました。しかし、裁判所は、控訴人病院では、本件手術当時、PCPSを設置していたのであって、控訴人病院が、有効性、有用性、有益性が確立しておらず、緊急時に使用することが想定されていないような装置を設置していたとは到底考えられないと判示し、PCPSは、心筋梗塞等の重篤な循環不全に対応されるものであるとのことであり、鑑定結果によれば、本件手術において患者にPCPSを装着することは可能であったと認められるとして、控訴人病院側の主張を採用しませんでした。

No.363の紹介にあたっては、一審判決(名古屋地裁平成28年2月17日判決・判例時報2349号47頁)も参考にしました。

No.363の事案では、一審と控訴審で、TEE画像上に認められるいぼ様の陰影及びクローバー様の陰影が、血栓を疑わせる所見であったかどうかについての判断が分かれました。

一審は、いぼ様の陰影は櫛状筋と判断し、クローバー様の陰影については、ダイナミックに形状が変化し、後の画像で消滅していることからスラッジ(左心耳内もやもやエコーの辺縁が明瞭なもの)の所見と考えたとする医師の証言を採用し、これらの陰影が血栓を疑うべき所見に当たるとは認めませんでした。

しかし、控訴審は、いぼ様の陰影が一般的な櫛状筋の形状、大きさと異なることや、クローバー様の陰影は境界がかなり明瞭であり、形状が変化しているのではなく、ひらひらと動いているようにも見えること、わずか3分間足らずの間に、明瞭に描出されたスラッジが完全に消滅することは考え難く、単に撮影断面の違いから描出されなかった可能性も否定しがたいことなどから、これらの陰影が血栓を疑わせる所見でないと判断することはできないと判示しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2018年7月10日
ページの先頭へ