今回は、市立病院における医師の注射や手術において、注射位置が適正でなかったことや、手術部位を誤認したことにつき、病院側の責任が認められた事案を2件ご紹介します。
No.360の事案では、患者側は、後遺障害逸失利益の請求もしましたが、裁判所は、患者の左肩に残存した後遺障害(患者の疼痛は、相当程度に軽減していたものの、肩関節の可動域は他動運動において、外転右170度―左115度、屈曲右170度―左150度、伸展右90度―左30度であり、主要運動である外転の左が右の4分の3以下に制限されていた)は、後遺障害等級12級相当と認定しましたが、患者が本件注射後に不動産賃貸業を営む会社の代表取締役に就任しており、上記後遺障害による減収があったと認めるに足りる証拠はないとして、逸失利益を認定しませんでした。
No.361の事案では、慰謝料の算定にあたり、裁判所は、「本件過誤は、高度な技術を要する措置に伴うものではなく、手術部位の単純な誤認によって生じたものであって、注意義務違反の程度は大きい」と指摘し、本件過誤によって失われた可動性が回復する余地はなく、患者の将来にわたる不安は軽視することはできないことなどを挙げる一方、当該部位の可動性はもともと大きいわけではないことや、本件過誤によって本来の部位のみ固定された場合よりも隣接椎間の変性による障害発生のリスクが高まったとは必ずしも認められないこと、病院側が謝罪の意を表しており、患者について生じた治療費等の一部を負担してきたことなどの事情も考慮して、慰謝料を300万円としました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。