今回は患者が死亡した事案で、病院側の転送義務違反が認められた裁判例を2件ご紹介します。
No.354の事案では、裁判所は、医師らが患者に心筋梗塞の既往症が有ることを十分に了知した上で受け入れて脳内出血の治療を開始し、入院後も顕著な心筋梗塞の発作が発現していたものである以上、初期の治療目的が専ら脳内出血にあったとしても、被告の医師らが患者の病状把握やそれに対する適切な処置を講ずるべき注意義務を逃れることはできないと判示しました。
No.355の事案では、病院側は、患者が以前から高血圧で大動脈弓部の部分的拡張もあり、患者の血管その他の循環器官に被害の拡大を誘引する病的素因が存在していたのであるから、過失相殺の法理が類推適用されるべきである旨主張しました。しかし、裁判所は、「病的素因」の具体的な内容や程度は明らかではなく、それが患者の死亡に何らかの影響を及ぼしたことを認めるに足りる証拠もないし、一般に医師は医療の専門家として、患者がなんらかの病的素因を有していることを前提として医療行為をすることが予定されているとして、病院側の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。