医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.340、341】

今回は食事中の窒息事故につき、食事介助者の過失が認められた事案を2件ご紹介します。

No.340は、医療機関での事故ではありませんが、食事介助者の過失の判断につき、詳細な検討がなされた判決であり、医療従事者にも有意義な事例と思われます。

この事案では、ホームヘルパーと介護サービス事業者である有限会社に加えて、同社の代表取締役個人(看護師資格者)も被告となっていました。しかし、裁判所は、会社が新人研修を行い、新人教育マニュアルには報告・連絡・相談の重要性や事故処理方法として、「現場で何らかのミス・対応しきれない事態が起こった場合は直ちに会社へ連絡し、指示を仰いで下さい。ヘルパーの判断で、対応できた場合でも現場を離れる前に会社へ状況報告し、『離れてもよい』という指示が出るまで現場を離れないでください」などと記載されていること、社内研修及び社外研修を行っていたこと、訪問介護サービスの実施にあたっては、介助日誌を作成しており、これを契約者毎にファイルにして保管し、ケースカンファレンスを行ったり、介護計画を立てたりしていたことなどから、ホームヘルパーの過失は、代表取締役による体制整備の不備であるとは認めがたいとして、代表取締役個人の責任を否定しました。

No.341は、判決後の控訴審で和解により終了しており、一審判決の内容が和解によって変更したかどうかは不明ですが、一つの裁判例として医療従事者の注意義務を考える上で有意義な事例と思われます。

この事案では、食事介助を担当した看護師の使用者である医療法人に加えて主治医も被告となっていました。しかし、裁判所は、主治医には自ら患者の食事介助をすべき義務があるとはいえないし、患者に提供すべき食事の形態について指示をしており、それで医師としての注意義務は尽くしているというべきであって、担当看護師に対して、具体的な食事介助の方法についてまで指示をする義務があったとは認めがたいと判示して、主治医には過失ないし注意義務違反はなかったと判断しました。また、患者側は、事故当日に食物を経口摂取させたこと自体が過失ないし注意義務違反に当たると主張しましたが、裁判所は、本件事故は、患者が蒸しパンを一口大にちぎることなく大きな塊のまま口に入れて喉に詰まらせたというものであって、嚥下機能に障害があったことを直接示すものではなく、主治医は診療録に患者の食事の状況について「良好」「全量摂取」などと逐一記載して、患者の摂食状況を観察評価しながら、患者に特段の嚥下障害はなく経口摂取が可能であると判断し、経口摂取を継続していたと認定し、経口摂取させたことや、蒸しパンを提供したことそれ自体が不適切な措置であるとまでは認めることはできないと判断しました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2017年8月 9日
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