平成14年9月27日福岡高等裁判所判決 (訟務月報49巻6号1666頁)
(争点)
- 担当医師らの説明義務違反の有無
- 説明義務違反が認められる場合の慰謝料
(事案)
昭和32年生まれの女性患者X(既婚・女児2名出産)は、平成3年にC産婦人科医院で検診を受けたところ、子宮頸部の上皮内癌と診断され、国立Y医科大学のB教授を紹介された。そこで、XはY医科大学附属病院(Y病院)婦人科を受診し、平成3年8月8日にA医師の執刀、B教授の立ち会いによって子宮全摘出術を受けた。
(損害賠償請求額)
Xの一審請求額:3152万1710円(内訳:治療費70万8710円+入院雑費18万3000円+慰謝料1500万円+休業損害400万円+逸失利益963万円+弁護士費用200万円)
(判決による請求認容額)
一審判決(大分地裁)が認めた額:60万円(内訳:慰謝料50万円+弁護士費用10万円)
控訴審判決(福岡高裁)が認めた額:同上
(裁判所の判断)
担当医師らの説明義務違反の有無
当時の医療水準に照らして最善の治療方法と考え得る単純子宮全摘出術だけでなく、代替的治療方法である治療的円錐切除術についても、それを実施している医療機関が少なくなく、相当数の実施例があり、産婦人科の医療分野でそれなりの評価を得ていたのであるから、これについても、できるだけ早期の段階でXに説明する義務があったと判示して、担当医師らに説明義務があったと認定しました。
また、医療機関としては、患者に対して子宮温存の希望の有無を確かめたうえで、治療的円錐切除術の説明の要否を決めるべきあって、患者が単に子宮温存を積極的に表明していないというだけで、治療的円錐切除術の説明義務がなくなると解するのは相当ではなく、医療機関側がこれを怠った場合は、説明義務違反の過失があると判示しました。 更に、国(Y病院)側が、医師には患者にとって生命への危険性がより大きくなると考えられる治療方法をはじめから選択肢として患者に示す法的義務はないと主張した点についても、治療効果が劣っていても子宮の温存など患者の生活の質を維持する効果がある場合には、患者がその治療方法を選択する可能性がないとはいえないのであるから、やはり説明義務違反があると判断して、病院側の主張を退けました。
説明義務違反が認められる場合の慰謝料
平成3年当時は、多くの医療機関において治療効果が高い単純子宮全摘出術を子宮頸癌の標準的な治療方法として採用しており、Y病院産婦人科においても同様であって、癌・病変の遺残、再発の危険性を伴う治療的円錐切除術の実施にあたっては、患者の希望、意思、子供がいない等の特殊事情を考慮して慎重に実施していたものであり、そのような扱い自体は特に非難されるべきことではないこと、またXにおいて妊孕性温存の必要性を担当医らに明確に表明しておらず、治療方法の選択についても、代替療法の有無や実施例などについて積極的に質問したり、説明を求めることがなかったことなどの事情をも併せ考慮して、一審認定の慰謝料額50万円を相当と判断しました。