今回は、歯科医師による手術の際の過失が認められた事案を2件ご紹介します。
No.324の事案では、患者は損害賠償請求権と手術費用等請求権とを相殺し、さらに手術費用のうち、「インプサイナスリフト」として計上されている7万円と「全身麻酔法加算」として計上されている6万円は、正常な治療に基づいて発生した費用ではないと主張しましたが、裁判所は、本件1次手術は、右下顎枝からの採骨時に下歯槽神経を損傷することはあったものの、サイナスリフトやフィクスチャーの埋入は問題なく行われており、麻酔時間が延長されたことについても、その原因が下歯槽神経の損傷にあるとは認められないとして、この点に関する患者の主張を採用しませんでした。
No.325の事案では、患者は、後遺障害につき、他覚所見が存在し、障害の存在が医学的に証明できるものであるから、「局部に頑固な神経症状を残すもの」(後遺障害等級表の第12級13号)に該当すると主張しました。しかし、裁判所は、第14級9号(局部に神経症状を残すもの)と認定し、両者の差異は、神経症状の程度の差であり、これは他覚所見の有無とは本来一致するものではないから、他覚所見があるからといって当然に第12級13号に該当するものということはできず、本件においては、障害の程度に鑑み、いまだ第12級13号に該当する程度に至っているものと認めることはできないとして、この点に関する患者の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。