今回は、うつ伏せ寝をしていた乳幼児が窒息死し、施設側の責任が認められた事案を2件ご紹介します。医療機関での事故ではありませんが、同様のリスクを医療機関も抱えており、死因の認定や注意義務違反の検討などにつき医療機関においても参考になる事例と思われます。
No.322の事案では、施設側は、死因はSIDS(乳幼児突然死症候群)と主張しましたが、裁判所は、SIDSを検討する前提として、外因死の可能性が否定されていることが必要であること、外因死との鑑別診断にあたり、死体解剖所見だけでなく、病歴や死亡状況調査の結果を併せ考慮し、両者において特に不審な点が見出せない場合にSIDSと判断することになることからすれば、乳児の死亡状況に照らし、鼻口閉塞による窒息死であると認定できる本件においては乳児の死因がSIDSであるとはいえないと判示し、施設側の主張を採用しませんでした。
No.323の事案では、施設の園長及び副園長は、本件事故により保育施設を運営していくことが困難になり、施設を閉鎖し、その後、両名については破産手続き開始決定及び免責許可の決定が確定しました。しかし、裁判所は、両名の過失は、保育の基本である乳幼児の健康や安全に対する配慮に関し、乳幼児に危険な状態が存在していることを認識しながら放置し、容認したものであり、園長・副園長として課せられた注意義務を著しく懈怠したと認定しました。さらに、本件施設において、乳幼児の午睡の時間が一定せず、午睡している乳幼児もいれば運動している乳幼児もあるという状況の中で、乳幼児を危険な状態(二酸化炭素の拡散性に劣る寝具にうつ伏せに寝かせた上に全身を覆うように大人用の毛布をかけ、さらにその上に巻きタオルケットを乗せていた)で寝かせば、これを踏まえた危険回避のための的確な観察態勢を整えておかない場合には、観察が十分に行われない事態が生ずるなどして、乳幼児の窒息死に至る事態が発生するおそれがあることを容易に予見することが可能であったと判示しました。その上で、両名の過失は破産法所定の「重大な過失」に当たり、両名に対する遺族の損害賠償請求権は、破産法所定の非免責債権であるから、免責許可決定が確定していても、損害賠償責任を負うと判断しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。