医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.314、315】

今回は、分娩に関して、医師の過失が認められた判決を2件ご紹介します。

No.314の事案では、病院側は、医師が午前7時50分ころから直ちに吸引分娩に取りかかり、5、6回ほど吸引分娩を行い、最後の2回が滑脱したため、午前8時15分ころに、鉗子分娩に切り換えて、午前8時20分ころ、新生児を娩出したのであるから、過失はないと主張しました。

しかし、裁判所は、カルテの記載(8時15分 吸引分娩施行 2回滑脱+)からは、午前7時50分ころから吸引分娩に取りかかったとは読みとれないし、病院側の主張に沿う医師の供述を明確に否定する両親らの供述に照らしても医師の供述を採用することはできず、他に病院側の主張を認めるに足りる証拠はないと判断しました。

また、病院側は、午前7時28分ころから、急速遂娩の一方法に相当するアトニンOの投与ないしクリステレル圧出法を開始していたことも主張しましたが、裁判所は、アトニンOの投与及びクリステレル圧出法そのものも一種の急速遂娩ということもできようが、本件においては、アトニンOの投与及びクリステレル圧出法は、吸引分娩ないし鉗子分娩を行えるよう児頭の位置を下げるために行ったものであり、胎児の娩出方法として使用したのではなく、逆に、吸引分娩ないし鉗子分娩を行うことができないほどの高位にある児頭を下げるためにクリステレル圧出法を用いることは胎児への悪影響が大きいことなどからすれば午前7時28分ころからアトニンOの投与ないしクリステレル圧出法を行っていたことによって医師が過失を免れるものではないと判示しました。

No.315の事案では、病院側は、事実経過に関して、母体の子宮口が全開大になったのは、午後2時ではなく午後1時であったと主張し、カルテの記載や当該医師の供述もこれに沿うものでしたが、裁判所は、カルテの記載について、被告医師が後に記載したと供述する時間帯より前の部分についてもその都度記載されたのではなく、後にされたことも考えられること、さらに、その都度記載したものと認められる看護記録には、午後1時に医師が診察した旨の記載はなく、午後2時の欄に「全開」との記載があること、また、被告医師が作成し、転院先の医師に渡した診療情報提供書には「PM2:00子宮口全開大となりました」との記載があることなどを指摘し、当該医師以外の者(看護師による記載)あるいは当該医師が緊急時に患者を託す医師に対し渡す書面にした記載の信用性が高いというべきであるとして、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になるかと存じます。

カテゴリ: 2016年7月10日
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