医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.312、313】

今回は、高齢の患者に対する医薬品の投与・処方にあたり、医師が医薬品の添付文書記載の注意事項に従わなかったことにつき過失が認められた事案を2件ご紹介します。

No.312の事案では、高齢の患者の慰謝料(800万円)の判断に関して、裁判所は、「81歳という高齢ではあったが、被告病院に入院するまでは、明確な意思を持って充実した日々を送っていたことが、その日記の記載から十分にうかがうことができる。ところが、被告病院での配慮を欠いた治療行為によってウェルニッケ脳症を発症し、それにより記憶障害、歩行障害、自発性の低下等の後遺症が残存した。以後、本件訴訟中に84歳で死亡するに至るまで、人生の締めくくりともいうべき余生において、人間らしい質を伴った生活を送ることができなくなったのであり、患者が多大な精神的苦痛を被ったことは明らかである。」と判示しました。

No.313の事案では、病院側は、患者の死亡と医師の過失との因果関係を争い、ワーファリンは出血そのものの直接原因となるものではない、患者の死因については複数の可能性があるから、確定できないなどと主張しました。

しかし、裁判所は、ワーファリンの抗凝固作用が出血の「発生」に関与することがある旨が製造元の文献に明示的に記載されている以上、本件でも副作用として脳出血を発症したと考えるのが自然であるし、仮にこの点を措くとしても、被告医師自身、ワーファリンと関係なく脳出血が発生した場合に、ワーファリンの影響による止血が困難となり、その結果として救命できなくなることも十分に考えられると供述していると指摘し、被告医師が適切な管理の下でワーファリンの処方を行っていれば、患者が死亡することはなかったと判示しました。また、患者の死亡原因につき、医学的・科学的にその具体的機序が明らかでないからといって、被告の医師が適切に血液凝固能検査を実施していたとしても患者の死亡が避けられなかったということはできないと判示し、病院側の主張を採用しませんでした。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2016年6月10日
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