医療判決紹介:最新記事

No.31「交通事故での入院中に被害者が死亡し、事故と医療過誤が競合した遺族の請求に対し、判決は病院の過失を否定し、交通事故加害者の損害賠償の範囲を限定した」

富山地方裁判所平成13年11月28日判決 損害賠償請求事件(判例タイムズ1133号178頁)

(争点)

  1. 病院の過失の有無
  2. 賠償責任の範囲及び金額

(事案)

平成7年9月12日午前6時25分頃、A(男性、死亡時75歳)が、自宅前路上でY運転の自動車に衝突され、Aは同日T県立中央病院(T病院)に搬入された。

AはT病院整形外科において、右足関節内顆骨折、右腓骨骨折、右膝内側側副靱帯剥離骨折、右肩甲骨骨折、右前腕挫創と診断され、さらに脳神経外科において、脳しんとう、頭蓋骨骨折、急性硬膜外血腫と診断されT病院に入院した。

Aは、T病院に入院中の10月22日、午後6時15分ころから、配膳された夕食を自力で摂取していたところ、夕食に含まれていたロールキャベツをのどに詰まらせ、同日午後7時15分、窒息により死亡した。

Aの子供3人が原告となり、運転手YとT県を被告として損害賠償請求をした。

(損害賠償請求額)

運転手Yだけに対して  101万9391円 (事故による受傷後死亡までにAに生じた損害分、内訳不明)
運転手YとT県に対して 2955万4816円(Aの死亡によりAまたはその家族である原告らに生じた損害分、内訳不明)

(判決による請求認容額)

<1>運転手Yに対して 443万0394円
算出過程:過失相殺前の損害合計610万7373円
内訳:死亡までの入院雑費 6万1500円+傷害から回復する前提で83日間分の休業損害 31万9633円+傷害慰謝料 171万円+後遺症慰謝料 250万円+治療費145万7530円+眼鏡代相当額 5万8710円
過失相殺 1割
過失相殺後の損害額 549万6635円
既払額151万6240円
既払額控除後の損害額 398万0395円←イ
弁護士費用3名合計45万円←ロ
(イ+ロ)÷3=147万6798円(1円未満切り捨て)←ハが、原告3名がそれぞれYに対して請求できる損害額。よって、ハの3倍である443万0394円が認容額

<2>T県に対して 0円

(裁判所の判断)

病院の過失の有無

Aには嚥下能力の低下はみられたものの、その程度は軽く、自力による食事の摂取には特に問題はなかったと認定したうえで、10月22日の夕食にロールキャベツを選択し、提供したことについてT病院の医師や看護婦に注意義務違反は無いと判示しました。 また、Aは自力で食事をとることができ、摂食量や食事の程度も順調に推移していた状態であって、特に嚥下に困難をきたす状態ではなかったとして、T病院の医師ないし看護婦には、Aの食事に付き添ってその補助をしたり、ごく近くで様子を監視すべき義務はなかったと判示し、看護体制や医師の対応が不適切ではなかったと判断し、T病院の過失を否定しました。

賠償責任の範囲及び金額

(1)判決は、まずT病院に過失はないとして、T病院を開設しているT県の損害賠償責任を否定しました。

(2)次に、運転手Yは交通事故と相当因果関係にある損害について賠償責任を負うという前提のもとに、賠償責任の範囲について次の通り判断をしました。

(ア)Aの死亡と本件交通事故との間に相当因果関係があるかどうか この点につき、裁判所は本件交通事故がなかったらAの窒息死がなかったという意味での条件関係はあるものの、本件事故による受傷そのものが、Aの窒息死の直接または間接の原因になったとはいえず、T病院の医師や看護婦に過失はなく、Aが本件事故により受傷しT病院に入院してその後食物をのどに詰めて窒息死することは予見可能ではなかったとして、本件事故とAの窒息死との間の相当因果関係を否定しました。

(イ)運転手Yは、本件事故による受傷により、Aが入通院による治療を要すること、歩行困難等の後遺障害を生ずることは予見可能であったといえるから、Aが回復した前提にたって、治療(83日間程度の入院と退院後も3ヶ月程度の通院が必要であったと認定)及びその後に生じるべき歩行困難等の後遺障害による損害(ただし、そのうち積極損害についてはAの死亡までに生じたものに限る)について賠償責任を負うと判示しました。

(ウ)具体的には、前記「裁判所が認容した額<1>」にあるとおりの内訳での損害賠償を認めました。

カテゴリ: 2004年9月30日
ページの先頭へ