今回は、手術手技に関して医師の過失が認められた判決を2件ご紹介します。
No.306の事案では、脾臓の摘出による労働能力の喪失率につき、裁判所は、脾臓の摘出により、細胞性免疫及び液性免疫のいずれもが低下し、脾摘後敗血症、脾摘後発熱、一過的な血栓塞栓症などの障害が発生しうること、脾臓喪失は、自賠法施行令2条別表後遺障害等級表において、労働能力喪失割合が45%とされていること、患者は復職後も体調不良のため月間7日から10日しか仕事をしておらず、数年後に退職したこと、患者には脾臓摘出の影響による典型的な症状は発現していないと認められること、その他諸般の事情を総合考慮し、喪失率を20%程度と判断しました。
No.307の事案では、病院側は、患者の左肝静脈が脆弱であったため、4-0ネスピレン糸での縫合止血ができず、圧迫止血はやむを得ない旨主張しました。しかし、裁判所は、患者の左肝静脈が、どのような縫合方法によっても縫合止血できないほどに脆弱であったとは認めることができないと判示しました。また、病院側は、十分な視野を確保できなかったため、左肝静脈を損傷したことがやむを得なかったとも主張しましたが、裁判所は、医師が、術前のCT画像で患者の中肝静脈と左肝静脈の合流部の形態及び腫瘤の存在とそれに伴う手術の困難性を認識していたこと、腫瘤と左肝静脈との間には1cm程度の距離があったこと等に鑑みると、十分な視野を確保できなかったことから、直ちに左肝静脈の損傷がやむを得なかったとまではいい難いと判示しました。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。