今回は、手術中に体内に異物が遺留された事案につき、病院側の損害賠償責任が認められた裁判例を2件ご紹介します。
両事案とも、争点は過失の有無ではなく、主として損害額の算定でした。
No.302の事案では、患者(若い女性)は、手術で体内に異物(ドレーンゴム管)が遺留され、肉体的・精神的苦痛を被ったことに対する慰謝料として300万円と、異物抜去の再手術により下腹部手術痕が残ったことによる腹痛・精神的苦痛を被ったことに対する慰謝料として300万円をそれぞれ請求(合計で600万円)しました。
しかし、裁判所は、「本件手術における腹部激痛発生の経過とこれを前提とする医師の過失の重大性、障害の継続と他病院における診療経過及び県立B病院における再手術の結果生じた下腹部手術痕及びこれに伴う後遺症と患者の性別・年齢との関係その他一切の事情を併せて考え」、患者の受けた精神的苦痛に対する慰謝料としては400万円が相当と認定しました。
No.303の事案では、体内に針が遺残しているため、患者側は将来も経過観察を受けるための費用として、患者の平均余命45年の間、2ヶ月に1回の割合でCT検査を受ける費用及びそれに必要な通院交通費、通院付添費、通院慰謝料の損害(合計666万5820円)が生じると主張しました。
これに対して、裁判所は、医学的に本件針は今後動かないであろうと認められることからすれば、将来の診察、検査の必要性・相当性がないという見方も可能ではあるが、針が体内に入ったまま生存している例は見あたらないことから、万が一の事態に備えるため、また患者の精神的な安定を確保するためにも、定期的な検査は必要と認定しました。そして、検査の頻度については、病院側も年1回程度は必要なのではないかと認めていること、あまり頻度が高いと被曝量の点で問題があり得ることから考えて、年1回のCT撮影が必要性・相当性のある範囲と認定し、1回のCT撮影及び診察にかかる費用(自己負担分)は約1万円であるとして、CT撮影及び検査に係る将来の費用として、1万円に患者の平均余命のライプニッツ係数を乗じた17万7741円を認定しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。