今回は、S状結腸の手術に関する医師の過失が争点となった裁判例を2件ご紹介します。
なお、判決文では、「S字」結腸という用語が使われている箇所もありますが、紹介上での表記は「S状」結腸に統一しています。
No.300の事案では、病院側は、ポリペクトミー手術が、穿孔を誘発したことは争わないが、腸内ガスの滞留しやすい患者の場合には、穿孔が生じることがあり得るし、本件患者の開腹手術の際にも電気メスの火花で小爆発が生じたように、患者が慢性の便秘症であって、穿孔の原因は患者の素因によると主張しました。
しかし、裁判所は、本件手術は当初から術後24時間以内にS状結腸に穿孔の生ずる可能性が予測される手術であったところ、まさに、術後24時間内外の経過により手術部位の穿孔による腹膜炎を発症しているのであるから、本件穿孔が本件手術に起因することは明らかであると判断し、開腹時に腹腔内にガスが充満していたとしても、それは穿孔部位から内容物が漏出した後のことであって何ら不自然ではないし、患者は当時便秘症になかったと認定し、病院側の主張を採用しませんでした。
No.301の事案では、病院側は、患者に生じた敗血症の原因がBT(バクテリアル・トランスロケーション)であると主張しました。しかし、裁判所は、BTに関する現在の一般的医学的知見として、高度外科侵襲時に発生する原因不明の炎症反応・重症感染症・多臓器不全の原因として考えられている説明概念の域を出ず、いまだヒトにおいて、その診断基準が確立しているともいえない状況にあると判示し、こうした現在の医学的水準に加え、患者の解剖が実施されておらず、急性腹膜炎の発症を明確に否定することもできない本件においては、患者の敗血症の原因がBTであると断定することはできないとして、病院側の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。