今回は、PTCAにおけるガイドワイヤーにより損傷した際の出血を見落とした医師の過失により、病院側に損害賠償が命じられた事案(No.294)と、カテーテルの挿入・留置について医師の過失はあるものの、不法行為責任は否定されて、遺族が敗訴した事案(No.295)をご紹介します。
No.294の事案では、患者遺族は、PTCAとバイパス術との術式選択を誤った過失も主張しましたが、裁判所は、当該患者のような症例においてバイパス術、PTCAのいずれが適切であるかという点については、未だ医学上見解の一致もみられないとして、PTCA、バイパス術のいずれかを選択するかは、当該医療機関の設備、術者の技術を総合的に判断して決すべきものであり、本件においてはPTCAの選択を拒否しなければならない事情は見いだし難いとして、術式選択の過失については否定しました。
No.295の事案では、患者の夫(当該病院を開設する大学出身の医師)は、患者がCVカテーテルの挿入ミスにより激しい胸背部痛に顔をゆがませていたため、病院の看護師らに対し、担当医に速やかな処置を求める旨を繰り返し申し出たのに、放置されたと主張し、本人尋問においても、患者が左手を胸に当てて苦しそうにのたうち回っていることを看護師に訴えたのに、看護師は看護記録にこれを記載しなかったし、医師にも連絡しなかった旨供述しました。しかし、裁判所は、仮に患者がそのような状態にありながら病院側で何らかの対応をしなかったとすれば、夫から看護師らに対し、その時点で直ちに、激しい抗議又は叱責がされたであろうことは容易に予測されるところではあるが、そのような事態に至った事実を認めることはできないのであって、夫の供述は信用できないと判示しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。