大阪高裁平成9年12月4日判決(判例時報1637号34頁)
(争点)
- 未熟児網膜症の治療法としての光凝固法の有効性、安全性
- 医療機関に要求される注意義務としての医療水準
- 光凝固法に関する知見は、昭和49年当時のY病院に要求される注意義務としての医療水準であったか
- Y病院に注意義務違反があったかどうか
- 損害
(事案)
No.28の事案と同一
(損害賠償請求額)
2760万円(内訳:Xに対し2300万円+Xの両親に対し各230万円)
(判決による請求認容額)
2040万円(内訳:Xの慰謝料1500万円+弁護士費用200万円+Xの両親の慰謝料各150万円+弁護士費用各20万円)
(裁判所の判断)
未熟児網膜症の治療法としての光凝固法の有効性、安全性
光凝固法は、少なくとも昭和49年当時の本症の専門的研究者の間においては、本症の治療法としての有効性、安全性を是認されていたものといえると判示しました。
更に、本件訴訟における事実審の口頭弁論終結時までの全証拠に基づき判断しても、現在においては、光凝固法は本症に対する有効、安全な治療法といえると判示しました。
医療機関に要求される注意義務としての医療水準
本判決はNo.28の判決の差戻審ですので、No.28の(裁判所の判断)の1、2で判示したものと同趣旨を判示しました。
光凝固法に関する知見は、昭和49年当時のY病院に要求される注意義務としての医療水準であったか
本判決は、昭和45年頃から昭和50年頃当時のH県及びその周辺の各種医療機関における光凝固法に関する知見の普及の程度等について、詳細に認定をした上で、Y病院が昭和49年当時、光凝固装置を有していなかったが、新生児センターを有し、H県N地区における新生児、未熟児の医療に中心的な役割を果たしていたとして、新生児、未熟児の医療に中心的な役割を果たしていたH県下の主な公立病院のうち光凝固装置を有していない病院と類似の特性を備えていた医療機関ということができると判示しました。
そして、光凝固装置を有していない主な公立病院は、昭和49年当時、おおむね、本症の治療法として光凝固法の知見を有しての有効性、安全性を是認し、同治療法による前提として未熟児に対して生後できるだけ早い時期に頻回に眼底検査を実施し、その結果必要あれば、より専門的なH県立こども病院などに未熟児を転医する体制であったと認定し、したがって、Y病院には、昭和49年当時、本症の治療法としての光凝固法の知見を有していたといえるし、少なくとも右知見は、Y病院にとって医療水準であったといえると判示しました。
Y病院に注意義務違反があったかどうか
上記のとおり、Y病院には昭和49年当時、光凝固法の知見を有することを期待することが相当であったのであり、Y病院の履行補助者である眼科のB医師は、右知見を有するものとして未熟児に対する眼底検査を、事情が許す限り生後できるだけ早い時期にしかも頻回に実施し、その検査結果に基づき、時期を失せずに適切な治療を施すなり、本症の疑いがあればH県立こども病院に転医させて失明等の危険の発生を未然に防止すべき注意義務を負っていたと認定しました。
したがって、B医師には眼底検査義務、本症の診断治療義務、転医義務違反の過失があったというべきであり、右義務違反はY病院を設営するY(被控訴人)の診療契約の債務不履行に該当すると判示しました。
損害
上記注意義務違反と控訴人Xの視力障害との間には相当因果関係があるとした上で、光凝固法による適期の治療がなされたとしても、Xの両眼の視力を完全に回復していたかどうかについて不確定な要素が全くないとはいえないから、これらを慰謝料額算定の一要素として考慮するのが相当であるとして、YがXに対して支払うべき慰謝料を1500万円、YがXの両親に対し支払うべき慰謝料は各150万円と判示しました。