今回は、手術の実施時期についての医師の過失が認められた判決を2件ご紹介します。
No.284の事案では、患者が最初に受診した個人医院の開設者であるY1医師及びそこからの紹介で入院したY2病院を開設するY2医療法人も被告となっていましたが、これらの被告の責任について、裁判所は次のような理由で否定しています。
Y1医師については、患者の症状から頭蓋内占拠性病変を疑うことは困難であったこと、脳神経外科医ではないY2を紹介した点も、当時の患者には直ちに脳神経外科の診察が必要と思われるような明確な神経脱落症状が存在したわけではなく、Y2も、CT設備はないとはいうものの、Y3の脳神経外科の専門医が定期的(週2回)に診察を行っており、必要があれば緊急連絡により専門医の診察を受けることが可能であり、先輩医師がいる関係で緊急入院しやすいY2を紹介したことをもって、Y1医師に診療義務違反があったとまでは認められないと判断しました。
Y2医療法人については、眼底検査やCTを行わないで髄液検査を実施した点や、脳神経外科医の診断を一日ないし半日早く受けさせるべきであったのにしなかった点には問題があるとしながらも、それにより、患者の事後の症状に悪影響を及ぼしたとは認められないと判断しました。
No.285の事案では、病院側は、患者の後遺障害について、末梢神経である馬尾の障害なので、後遺障害等級表の9級以上の等級の「神経系統の障害」には含まれないことや患者の上半身は正常であり、「労務につくことができない」とはいえないことから、本件後遺障害等級は3級3号に当たらない旨主張しました。
しかし、裁判所は、前者の主張については「馬尾に損傷を受ければ、中枢神経に損傷を受けた場合と同様に、広範な機能障害を負うことから、馬尾を中枢神経と区別して、『神経系統』に含めないのは妥当でない」、「患者は馬尾の損傷により両下肢に麻痺が生じ、両下肢とも動かすことができないのであるから、中枢神経に障害を受けた場合に比類する」と判示し、後者の主張についても、「患者は、上半身は正常であるとはいえ、自力歩行は不可能であり、車いすで生活しなければならないのであるから、通常、労働を行うことはできないと解されるところ、本件証拠上、患者が家事を行っていたり、また、家事を行うことが可能であるという事情はうかがえないことから、患者は『終身労務に服することができない』状態であると認められる」旨判断し、病院側の主張を排斥しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。