今回は、未熟児網膜症事件の判決をご紹介して、「医療水準」に関する裁判所の考え方をみていきたいと思います。なお、未熟児網膜症事件に関しては、多数の訴訟が提起され、最高裁判所の判決も複数出ていますが、今回ご紹介するのは、そのうち、平成7年6月9日の最高裁判所判決(No.28)と、その判決によって差戻された、大阪高等裁判所での平成9年(No.29)の判決です。
医療過誤訴訟において、医師の注意義務違反を判断する場合の基準となるのは、「診療当時の臨床医学の実践における医療水準」であるという判断基準を、昭和57年3月30日の最高裁判所第三小法廷判決(これも未熟児網膜症に関する判決です)が示し、確立した判例の立場となりました。
この「臨床医学の実践における医療水準」の具体的内容について、No.28で取り上げた最高裁判決は、
- 当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性及び当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関における知見の普及の程度等を考慮すべきであるとして、医療水準の判断基準をより明確に判示しました。
- また、個別の医療機関ごとに医療水準は異なる(医療水準の相対性)ことや、当該医療機関が実際に有している知見がそのまま医療水準になるわけではなく、「類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関に期待することが相当と認められる知見」が当該医療機関にとっての医療水準であるとの判断も示しました。
- 更に、当該医療機関としては、その履行補助者である医師等に、当該医療機関にとっての医療水準というべき知見を獲得させておくべきであるとも判示しました。