医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.276、277】

今回は、新生児の取り違えに関して、病院の債務不履行責任が認められた判決を2件ご紹介します。

どちらの事案も、出生から数十年経過しての提訴であり、消滅時効(権利を行使することができる時から10年)が完成しているかどうかが主な争点となりました。

紹介にあたっては、掲載雑誌である判例時報の解説も参考にしました。

No.276の事案では、不法行為による損害賠償も選択的に併合請求されていましたが、裁判所は、不法行為による損害賠償請求権は不法行為(本件取り違え)のときから20年の除斥期間が経過したことにより消滅したと判示しました。

また、慰謝料に関して考慮された事情としては、

  1. 真実の親子でないのにそのことを知らないまま約46年も経過し、真の親子との家庭生活を過ごすことができず、今となってはこの期間を取り戻すことはできないのであり、その期間が長期であるため、精神的損害は大きいこと
  2. 今後とも真実の親子を知ることが事実上極めて困難であるため、真の子あるいは真の親と対面し、家族として生活を行うことは著しく困難な状況にあり、精神的苦痛は今後とも継続するとみられること
  3. 産院として基本的な過誤であり、過失は重大であり、人生を狂わされたこと

などが挙げられています。

No.277の事案では、取り違えによる家庭環境の差から、取り違えがなければ大学に進学できたとして、大卒と中卒の生涯賃金の差額につき、逸失利益の主張がされましたが、裁判所はこれを排斥した理由として、

  1. 家庭環境だけで、中卒又は高卒で終わるのか、大学への進学および卒業が可能になるかが必然的に決まるわけではなく、本人の能力、意欲、関心の所在等によって、大学進学という進路をえらばなかったり、入試の失敗により断念したり、進学を果たしたものの卒業に至らずに終わるといった例も少なくないこと
  2. 取り違えられた子が18歳であった昭和46年当時の大学進学率は昨今のように高いものではなく、現在の感覚以上に大学への進学は容易なことではなかったと考えられること
  3. 本件取り違えから大学進学時まで最短で18年、卒業まで最短で22年という長期間(しかも人の人生において最も多感な時期)があり、出生後間もなくの時点をもって、その間に生じ得る状況の変化を見通すことは困難である

ことを挙げました。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2014年12月12日
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