今回は麻酔医の過失が認められた判決を2件ご紹介します。
No.272の紹介にあたっては、一審判決(神戸地方裁判所平成9年11月5日判決・判例時報1656号117頁)も参照しました。
No.272の一審では、いわゆる協力医師(医療過誤訴訟で原告患者側の立場で組織的あるいは個別的に支援する)が患者遺族の輔佐人として認められ、またその協力医師が証人として証言したり、協力医師作成の鑑定意見書が証拠として採用されました。
控訴審で、控訴をした医師側は、この協力医師は麻酔の専門家ではないことなどを理由に輔佐人とすることを許したこと及び協力医師の証言や鑑定意見書を証拠としたことは、いずれも訴訟手続の法令違反にあたる違法なものであると主張しました。この点につき、控訴審裁判所は「医療等の専門的知識が必要とされる訴訟について、輔佐人を許可するか否かは、事案の内容や訴訟経過に基づき裁判所が合理的裁量により決定することができるものであり、本件について輔佐人許可の決定をしたことが右裁量を逸脱した不合理なものであると認めることはできない」「(協力医師の)経歴によれば、同人に本件の輔佐人としての資格がないということもできない」などとして医師側の主張を排斥しました。
No.273の事案では、病院側は、食道内への誤挿管を否定し、患者は執刀のころに起こった心筋梗塞ないし冠動脈スパズムのため急性循環不全に陥り死亡したと主張しました。
しかし、裁判所は、執刀直前の患者の血圧は最大156ミリ水銀柱、最小104ミリ水銀柱と十分に保たれ、執刀直後である午後1時50分の時点でも、急降下はしたものの、最大100ミリ水銀柱、最小74ミリ水銀柱と、血液循環が保たれているだけの血圧が測定されており、執刀のころに急性循環不全に陥ったとは認められないとして、病院側の主張を退けました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。