医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.270、271】

今回は、注射針刺入行為の過失が認定された裁判例を2件ご紹介します。

No.270の事案では、病院側は、

「仮に問題となった注射行為によって患者の橈骨神経の分枝の損傷が生じ、末梢部の知覚異常がみられることはあっても、一過性のものであり、固定的に末梢部以外の手指の運動機能障害が生じることは考えられない」と主張しました。

この点につき、裁判所は、

「RSD(反射性交感神経性異栄養症)は、患者が軽微な外傷を受けた後に、この原疾患からは考えられない広い範囲の疼痛と浮腫性腫脹が生じることが主な症状であること、特に、本件のように神経を損傷した場合においては、疼痛の範囲が損傷された神経の支配域に一致しない類型があること、橈骨神経の損傷の場合であっても相違はないこと、疼痛等の症状は必ずしも可逆的ではないこと」などが認定できるとした上で、「本件注射行為によって、本件注射行為がおこなわれた橈骨神経部位より末梢部の知覚以外に異常が生じないとはいえない」と判示して、病院側の主張を採用しませんでした。

No.271の事案では、会社及び保健師側は、

「患者が証拠提出した、関節の可動域についての診断書等の表示記載に誤りがあり、また、患者の自覚症状の訴えを鵜呑みにしたもので客観性に乏しい」と主張しました。

この点につき、裁判所は「(当該診断書等の)同表示方法は、診断書の記載としては不正確なものであり、可動域の記載としては信用性が乏しいと言わざるを得ない。加えて、同診断は、上記関節可動域の測定や痛みの有無の判定につき、患者の自覚症状に基づいた判断がなされているところ、・・・患者の愁訴内容は、やや誇張される傾向があると認められるので、客観的な評価という点では劣る面があるということはできる。」と判示しながらも、「しかしながら、RSDやカウザルギーにおいては、その性質上、疼痛等の原因が、関節の器質的損傷によるものではない場合には、患者の自覚症状の訴えが起訴となることは当然であって、当該病院の診断方法が不適切であるとまではいうことはできない。」と認定し、「他方、当該病院においては、右手・指の浮腫、冷感・発汗異常等の確認、サーモグラフィ検査による右腕と左腕の温度差の確認など、客観性のある診察も試みたうえで、総合的な診断を行っているものであり、」結果的にその診断内容は、患者において右手に障害があるということを認めることについては何ら問題がないとの判断を示しました。

紹介にあたり、一審判決も参考にいたしました。

両判決の原文で「看護婦」「保健婦」とあるところは、現在の名称「看護師」「保健師」に変えています。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2014年9月10日
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