今回は手術の適応・術式選択に関する医師の過失及び手術に関する医師の説明義務違反が認められた地裁判決を2件ご紹介します。どちらも、手術開始後に状況を踏まえて医師が確定した方針について過失ありとされ、その方針についての説明義務も尽くされていないと判断されています。
No.264の事案では、患者は、腫瘍摘出手術で摘出された組織が正常神経組織で腫瘍病変が認められなかったことや、腫瘤像が手術後もそのまま残っていることなどを根拠として、手術を担当した医師が、腫大した視神経以外に腫瘍と思われるものが見つからないと判断した点にも過失があると主張しました。しかし裁判所は、患者が根拠とするところはいずれも結果論であって、医師の過失を推認させるものではなく、他に、この点に関して医師の過失を認めるに足りる証拠はないとして、患者の主張を採用しませんでした。
No.265の事案では、患者側は、2カ所の瘤について同時に人工血管に置換する手術は避けるべきであった点についても主張しました。しかし、裁判所は、2カ所の瘤を同時に人工血管に置換する場合、その手術侵襲はより大きなものになると解されるが、2カ所の瘤それぞれについて手術適応が認められ、また拡大傾向が認められる上、患者の年齢(手術当時71歳)や、片方の瘤のみを対象とする手術でも相当の侵襲を伴うこと、患者の結果の状態が不良であったことなどに照らし、もう一方の瘤について確実に2回目の手術を行い得る条件がないとの判断が不合理とはいえないことからすると、手術の開始に当たり、2カ所の瘤を同時に人工血管に置換する予定を立てたことについては、医師に過失はないとして、この点に関する患者の主張を採用しませんでした。
両事案とも実務の参考になるかと存じます。