今回は、癌患者に対する説明義務が争点となった事案を2件ご紹介します。1件(No.260)は説明義務違反が否定され、1件(No.261)は説明義務違反が認められました。
No.260の事案で、裁判所は、末期乳癌患者に対する血管造影検査実施前の時点で、患者遺族らは、患者の病状につき突然の大出血には対処する手段がないことを前提とした説明を受けていたことが認められるものの、この時点で、患者に対する延命治療を放棄し、治療方針を疼痛緩和のみに限定する旨の明示又は黙示の合意が成立したものとは認められないと判示し、かえって、患者の夫は、患者に対する免疫療法の一種であるリンパ球療法の施行を強く希望しており、患者本人も積極的に治療を受ける態度を示していたのであるから、この時点での患者に対する治療方針が単なる疼痛緩和に限定されていたとは認められないと判断しました。
No.261の事案で、患者遺族は、訴訟提起時に、被告が経営する別のクリニック作成の新免疫療法のパンフレットを、被告が新免疫療法の効果等を示すために患者に交付しているパンフレットとして証拠提出していましたが、その後、弁論準備手続終結後に至って、証拠提出済みのパンフレットには記載されている説明内容が記載されていない、別のパンフレットを、患者が初診時に交付されたパンフレットとして証拠提出しました。これに対して被告は成立の真正を争いました。
裁判所は、患者遺族が弁論準備手続終結後まで当該文書(後から提出したパンフレット)を提出できなかったことについて合理的な理由を述べていないことや、患者初診時と同じ頃に配布されていた被告が経営する別のクリニックのパンフレットの記載内容などに照らし、患者遺族が後から提出したパンフレットにつき、患者の初診時に交付されたものとは認めませんでした。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。