医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.26、27】

今回は、客観的にみて診断に誤りがあった事案で、「診療契約における債務不履行」責任が争点となった判例を2件ご紹介します。

訴訟において、ある事柄を証明する責任を原告側が負うのか、それとも被告側が負うのかが、判決を左右することがしばしばあります。

例えば、原告が被告に対して、貸したお金を返してほしいという訴訟を起こし、被告が、お金を借りていないと反論をしたと仮定します。このときには、原告の側で、「原告がお金を被告に貸したこと」を証明しなければなりません。そして、お金を貸したことを証明できなければ、原告は敗訴します。被告側でお金を借りていないことを証明する必要は無いのです。これが原告側に、「お金を貸したこと」の証明責任があるという意味です。

仮定を少し変えて、被告側が、お金を「借りたけれども返した」という反論をしたとしましょう。この場合には、「原告がお金を被告に貸したこと」自体には争いがありませんから、原告側の証明責任は問題になりません。逆に被告の側で、「お金を返したこと」を証明しなければいけません。被告がお金を返したことを証明できなければ、被告は敗訴します。被告側に「お金を返したこと」の証明責任があるのです。

医療過誤訴訟が患者側にとって負担が大きいのは、過誤(病院・医者側の過失・注意義務違反・債務不履行)や、患者に生じた損害と過誤との因果関係を証明する責任が原則として患者側にあるからです。

今回ご紹介する判例のうちNo.26は、原則どおり、患者側で医師側の具体的な注意義務違反を主張立証しなければならないと判断しました。

No.27は、一審の大阪地裁では医師の債務不履行(注意義務違反)が否定されましたが、高裁では逆転して、医師の債務不履行責任が認められました。大阪高裁の判決の中で、注目すべきなのは「診断を誤った場合は、一般的医療水準から考えて右誤診に至ることが当然であるようなときを除き、債務の履行が不完全であったということができる」という判示です。この判示は、患者側は「客観的に診断が誤っていた」ことの証明責任を負い、誤診に至ることが当然である(誤診がやむを得ないものだった)ことの証明責任は医者側が負うという見解にたっているものと思われます。このような見解が裁判実務上定着しているとまではいえませんが、参考になる判決だと思います。

カテゴリ: 2004年7月27日
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