今回は、医師の転医勧告義務違反が認められた事案を2件ご紹介いたします。
No.254の事案では、診療所の医師(被告)は、患者(原告)が診療所での初診から転院先での手術まで約11時間が経過していることが異常に長いとして、仮に医師の責任が認められるとしても、この異常な時間経過は過失相殺又はこれに類する事情として考慮されるべきであると主張しました。
しかし、裁判所は、この事実経過は、医師が十分に説明し、泌尿器科専門医での受診を指示しておけばすべて避けられた事実経過であると判示し、さらに、鑑定結果を踏まえて、転院先での手術までの時間経過はおおむね妥当なものであり、診療所医師(被告)による再診後になされた転院先での処置にも特段の不備は認められないとして、過失相殺を否定しました。
No.255の事案では、被告の医師は、訴訟が提起されてから約1年後に初めて、診療情報提供書を証拠として提出し、患者に転医を強く勧め、この診療情報提供書を渡そうとしたが、患者が受け取りを拒否したと主張しました。
しかし、裁判所は、訴訟に先立つ証拠保全手続きの際に、医師が保管している書類の一切として裁判所に提出した書類の中には、この診療情報提供書が含まれていないこと、仮に証拠保全の際に提示できなかったとしても転医勧告の有無は本件訴え提起当初から争点となっていたところ、それにもかかわらず診療情報提供書が本件訴え提起から約1年後まで提出されなかったことの首肯できる説明はされないし、転医を勧めたとする時期よりも後に転医を勧めたとする病院の耳鼻科ではない別の科に、患者が入院したことを考慮すると、診療情報提供書は被告医師が転医を勧めた裏付けとならないと判断しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。