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No.235「新生児が重度の新生児仮死で出生し、重度の脳性麻痺などの後遺症が生じた後、約1年後に死亡。帝王切開を行わなかった医師の過失を認め病院側に賠償を命じた地裁判決」

青森地方裁判所弘前支部 平成14年4月12日判決 判例タイムズ1187号301頁

(争点)

  1. Y2医師に帝王切開を行わなかったことについて過失はあったか
  2. Y2医師の過失とAの脳性麻痺及び死亡との因果関係の有無

 

(事案)

X1(出産当時21歳・初産)は、平成4年1月10日、Y1保健生活協同組合の経営するY病院で初めて診察をうけた。出産予定日は、5月8日であった。

5月21日午前10時頃、X1が過期妊娠(41週6日)にて入院した。

看護計画(問題点)として、初産であり、陣痛がないこと、子宮底長が39㎝と大きめであること、体重が14.5㎏超過していることが指摘された。

同日午後6時30分頃、X1は、陣痛室に入り、翌22日の午前2時20分ころ、Y病院の産婦人科に勤務するY2医師が内診すると、産瘤があり、羊水はほとんどないが自然破水と診断し、分娩監視装置(CTG)を装着した。

午前4時5分頃、X1の子宮口は7から8㎝に開大し、子宮頚管浮腫状、怒責(いきみ)感も出てくる。怒責を開始し、Y2医師は、用手的に子宮頚管を開大した。この時点で、児頭の下降位置はステーション+1か2位の段階であった。

午前4時15分頃、分娩監視装置にて徐脈が出現する(ただし、この時点において、分娩監視装置の装着がうまくできていなかったためか、ノイズが入っている。)Y2医師は、分娩監視装置の記録が不明瞭ではあるものの、心拍数を測定することができたと思える部分(午前4時20分前後)にかなりの徐脈が診られたため、高度の変動性徐脈ではないが、胎児の低酸素状態が予測されると考え、酸素(1分に61の流量)を投与することとした。

分娩監視装置の再装着後の午後4時25分頃には、基線レベルも120bpm前後まで回復し、高度変動性徐脈とはいえない状態になったので、経膣分娩が可能と考え、さらに怒責を加えた。

午前4時45分頃、分娩監視装置にて基準心拍レベルが下降し、すべて120bpmより低く、90bpm前後で持続する持続性徐脈となった。そこで、Y2医師は、胎児仮死であると判断して、吸引分娩を開始した。子宮口は全開大前であった。

午前5時5分、吸引分娩だけではなかなか児頭が下降しないため、Y2医師の指示でクリステレル圧出術が行われ、同時に、アトニン0(オキシトシン:分娩誘発剤)1単位を筋肉注射する。

Y2医師は、持続性徐脈になったことから、非常に重症の仮死(胎児仮死)を予測したが、帝王切開をするとなると準備に時間が掛かることから、判断に迷った。

午前5時15分頃、吸引分娩にて男児Aを出生する。出生児の体重3998g、身長51㎝、胸囲38㎝、肩甲周囲(肩の周囲径)42㎝、児頭の前後径周囲35㎝であった。

出生時、自発呼吸はなく、チアノーゼ・蒼白で、筋緊張が全くなく、刺激反応は全くなく、心拍数徐脈という重症仮死(仮死Ⅱ度)であった。生後1分後のアプガースコアは1点であった。Y2医師は、ただちに蘇生として、気管内挿管を行い、エアバッグでの人工呼吸及び体外式心マッサージを行った。

約1時間後に自発呼吸が出現した状態で、病状は、低酸素性脳症、頭蓋内出血、左鎖骨骨折及び胎便吸引症候群が認められ、重度の脳性麻痺等の後遺症が免れないものであった。

Aは出生後直ちにY病院小児科に入院し、平成4年10月にS整肢園に入院し、平成5年6月21日にも同園に入院するが、同年7月8日退院し、同日肺炎のためK市立病院に入院した。Aは、同年8月17日、同病院を退院し、Y病院に再度入院し、一旦退院したものの平成6年1月10日に再入院した。同年1月14日、Aは急性心不全により死亡した。

Aの両親X1及びX2が、Y1及びY2に対し損害賠償を求めて、訴えを提起した。
 

(損害賠償請求額)

遺族(両親)の請求額合計:1億2093万5474円
(内訳:逸失利益6484万4075円+介護費用530万6400円+本人の慰謝料3000万円+両親固有の慰謝料計1000万円+墳墓・葬儀費用78万5000円+弁護士費用1000万円、遺族が2名のため、端数不一致)
 

(判決による請求認容額)

裁判所の認容額:遺族(両親)計5199万1488円
(内訳:逸失利益2156万6988円+介護費用391万9500円+本人慰謝料1500万円+両親固有の慰謝料計600万円+墳墓・葬儀費用78万5000円+弁護士費用472万円)
 

(裁判所の判断)

医師に帝王切開を行わなかったことについて過失はあったか

裁判所は、胎児心拍数図、分娩監視装置所見用紙の記載、Y2医師が事後的に作成した文書、産婦人科であるY病院院長の証言、鑑定書などを考慮して、分娩当日の午前4時20分頃の時点で、高度変動一過性徐脈が認められたと判断しました。

そして、高度変動一過性徐脈は、重症胎児仮死の徴候の一つであるから、胎児仮死に対する処置を行うべきであると判示しました。

その上で、高度変動一過性徐脈が酸素投与により消失したとしても、その出現後急速遂娩までの時間が25分以内はアプガー良好、40分以上は、アプガー不良になるといわれているところ、4時20分頃は、子宮口の開大が7から8㎝、児頭の下降位置がステーション+1か2位の段階であったというのであるから、経膣分娩を続行した場合には相当の時間がかかることが予測されること、Xが初産で、過期妊娠かつ肥満妊婦であったこと、巨大児と予測され児頭骨盤不均衡の疑いがあったこと、羊水が少なく、E3やhPL検査により、胎盤機能不全のおそれもあったこと等を加えて判断すれば、急速遂娩として、吸引や鉗子ではなく、帝王切開を選択すべきであったと判示しました。

以上により、Y2医師は、午前4時20分頃、帝王切開をすべき注意義務があったのに、それを怠った注意義務違反があったものと認められました。

Y2医師の過失とAの脳性麻痺及び死亡との因果関係の有無

裁判所はAの脳性麻痺の原因は、分娩時の低酸素症によるものと判断しました。そして、午前4時20分の時点で、子宮内蘇生処置をしつつ、帝王切開の準備を行っていれば、4時45分までの胎児心拍数が安定していたこと等からして新生児仮死に陥らなかった可能性が高いと判示して、Y2医師の過失によりAの脳性麻痺が生じ、これを原因として死亡したものとして、Y2医師の過失とAの死亡との因果関係を認めました。

以上から、裁判所は上記「裁判所の認容額」の範囲で、X1及びX2の請求を認めました。その後、判決は確定しました。

カテゴリ: 2013年3月11日
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