医療判決紹介:最新記事

選択の視点【No.208、209】

今回は、産婦人科医師に新生児出生後の転送義務違反が認められた高裁判決(No.208)と、否定された高裁判決(No、209)をご紹介します。

No.208の高裁判決については上告受理申立がなされた後、和解が成立しています。

No.209の紹介にあたっては、判例タイムズ1353号185頁の解説も参考にしました。

No.208の事案は、提訴から地裁判決までに約10年、提訴から高裁判決までに約14年も経過しています。地裁では、提訴から約5年後にいったん口頭弁論が終結された後、2回も再開され、再開後に鑑定が採用されるなど通常とは異なった経過をたどりました。高裁でも、4人に鑑定依頼をするのに約2年かかっています。この点について、高裁判決は「本件の審理の遅延は、主として裁判所がその責めを負うべきものであることを認めざるを得ない。正義の遅延は、正義の拒否に等しいとは、古来言い古されてきた法諺であり、・・・・また、本件が重い障害を負って出生した児とその家族が救済を求めて提起した訴訟であることを思うと、本件の審理経過は、真摯に反省を要する程度のものと考える。」と述べています。

No.209の事案では、患児側から、一審判決が、一審に関与した専門委員(医師)の意見にわたる発言を実質的に心証形成の資料とし、専門委員の意見を鑑定に代替させているから、証拠でないものを判断根拠とした、採証法則違反がある旨の主張がなされましたが、高裁は、「原判決の説示をみれば、専門委員の意見を証拠として掲げていないことはもとより、具体的な判断も、証拠となっている別の医師の作成した意見書及びその添付資料、医学文献から専門的知見を得た上、具体的診療経過をあてはめ、心証形成していることが明らかである」として患児らの主張を採用しませんでした。専門委員は「専門的な知見に基づく説明をするために必要な知識経験を有する者の中から、最高裁判所が任命する」(専門委員規則第1条)、いわばアドバイザー的立場の専門家です。

両事案とも実務の参考になろうかと存じます。

カテゴリ: 2012年2月13日
ページの先頭へ