今回は、がん患者に対する治験薬投与後、患者が死亡した事案で、病院側の責任が認められた判決(No.206)と否定された判決(No.207)をご紹介します。
No.206の判決では、治験薬を投与した県立病院勤務の医師につき、県の履行補助者として、患者の人権を尊重しつつ、専門医として要求される高度の知識、技術を駆使して適確な診断を行い、必要な処置を遅滞なく実施し、もって患者の疾病の回復を図るため最善の診療を給付することを内容とする診療契約上の債務の不完全履行が認められるとの判示もされています。また、「争点」でご紹介する注意義務違反及びインフォームド・コンセント原則違反の認定のほかにも、医師が治験薬の投与において、治験計画書(プロトコール)に違反した行為について、医師が遵守すべき注意義務に違反した不法行為であり、かつ診療契約上の債務の不完全履行であると認定して、治験薬投与自体についての医療上の過誤行為とは、責任原因の競合になると判断しています。さらに、臨床調査票への虚偽の記入も認定されましたが、これについては倫理的に非難されるべきとしながらも、患者の具体的利益が侵害されたというには足りないとして、慰謝料算定の際に斟酌されるにとどまると判示しました。
No.207の判決では、大学病院の医師が、患者に対し、「本件治験に参加するか決定するためにその後1週間の熟慮期間を与えた上で、本件治験により生じる可能性がある副作用について複数回にわたり患者から説明を求められたのに対しても、その都度副作用の抽象的危険性やこれまでの症例を踏まえての副作用発現の実情につき回答しており、いずれの質問に対しても、当該時点における医学的知見に基づいて可能な限りの説明を行ったということができる」と判示し、医師の説明義務違反を否定しました。
両事件とも実務の参考になろうかと存じます。