今回は、精神科・精神神経科の診察に関する判決を2件ご紹介いたします。No.204は患者遺族の請求が一部認められ、No.205では、患者の請求が全く認められませんでした。
No.204の判決は、患者が従前通院して治療を受けていた病院と自殺する直前に入院した病院のそれぞれの責任について、連帯責任ではなく、責任の範囲を明確に分けた判断がなされています。
また、患者死亡の損害算定にあたり、患者が酩酊し、興奮状態にあったことや、家族の入院要請が緊急なものであったことから、医師の問診や診察などが受けられなかったため、入院時の精神障害の内容、程度及び自殺念慮の強弱、真偽について的確な判断がなされなかったことや、患者の疾患が、うつ病の典型的症状が明確に現出していなかったためにうつ病かどうか必ずしも明確に判断できるものではなかったことを指摘して、損害の3割を減額しています。
No.205の判決は、一審が患者の全面敗訴、控訴審で患者が一部勝訴し、最高裁で患者が全面敗訴という経過をたどりました。判決紹介にあたっては、判例タイムズ1348号92頁の解説や、ウエストロージャパンに掲載された一審判決(東京地裁平成20年5月21日判決)も参考にしました。
No.205の判決で、最高裁判所は、PTSDの発症を認定するための要件の一つとして「実際にまたは危うく死ぬまたは重傷を負うような出来事を一度または数度、あるいは自分または他人の身体の保全に迫る危険を、その人が体験し、目撃し、または直面した」というような外傷的な出来事に暴露されたことを要するとされていることをアメリカ精神医学会が発表している診断基準の内容として紹介し、また、文献の中には、PTSDの症状が、その原因となった外傷を想起されるもの、人生のストレス要因または新たな外傷的出来事に反応して再発することもあること、同一ないし類似の再外傷体験がPTSDを発症させやすいことなどを説くものがあると判示しています。
両判決とも実務の参考になろうかと存じます。