福岡高等裁判所 平成20年2月15日判決 判例タイムズ1284号267頁
(争点)
手術の際に脊髄を損傷させた過失を認定するにあたり、脊髄損傷の原因の具体的特定がどこまで必要か
(事案)
交通事故の後遺症で四肢全体に重度の障害があったX(手術時68歳の鍼灸師の男性)が、Y市の開設するY病院において、頸椎手術(以下、「本件手術」)を受けたところ、Y病院の医師らの過失により症状が悪化し、四肢不全麻痺等の後遺障害が残ったとして、Y市に対して、損害賠償訴訟を提起した。
第一審裁判所が、損害3372万6360円及び遅延損害金の限度でXの請求を認容したため、これを不服としたY市が控訴し、Xも賠償額の増額を求めて附帯控訴をした。
(損害賠償請求額)
患者の請求額:計5906万7568円(内訳:不明)
(判決による請求認容額)
裁判所の認容額:
【第一審の認容額】計3372万6360円(内訳:不明)
【控訴審の認容額】計2059万2124円(内訳:逸失利益213万1724円+介護費用650万3380円+慰謝料700万円+治療費及びリハビリ費用70万5020円+治療及びリハビリ費のための交通費70万円+入院雑費55万2000円+器具および修理代100万円+弁護士費用200万円)
(裁判所の判断)
手術の際に脊髄を損傷させた過失を認定するにあたり、脊髄損傷の原因の具体的特定がどこまで必要か
裁判所は、まず、Xの本件手術後の四肢不全麻痺は、(1)手術機器であるエアトームの振動による脊髄損傷、(2)エアトームによる脊髄の直接損傷、(3)骨片の挿入による脊髄の圧迫損傷のいずれかである可能性が高いが、そのいずれかを特定することは困難であると判示しました。
その上で、いずれにせよ(1)から(3)の原因のいずれか、あるいは、これらが複合して脊髄の損傷をきたしたものと認めるのが相当であると判断しました。
そして、Y病院の医師は(1)から(3)の際に、細心の注意を用い脊髄を損傷させないようにすべき注意義務があったのにもかかわらず、これを怠った過失があるというべきであると判示し、上記控訴審の認容額記載の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。その後判決は確定しました。