今月は、妊産婦の死亡事案について、病院側の責任が認められた判決と否定された判決を1件ずつご紹介いたします。
No.176の判決紹介にあたっては、一審判決(東京地裁平成17年9月30日判決)も参考にしました。この事案では、患者に死亡に至る症状が生じた原因として、一審判決は、「出血性ショックの遷延及び重篤化のみならず、新たに生じた肺塞栓又は羊水塞栓が加わった」と判断しましたが、高裁判決は、「肺塞栓又は羊水塞栓の発症は認められない」と判示しています。
No.177の事案は、18件もの病院に受け入れを拒否されたとして大きく報道された事件です。遺族の請求自体は棄却されましたが、裁判所が判決中に極めて異例の「付言」として、相当の分量を割いて「社会の基本的なセイフティネットである救急医療の整備・確保は、国や地方自治体の最も基本的な責務であると信じる。重症患者をいつまでも受入医療機関が決まらずに放置するのではなく、とにかくどこかの医療機関が引き受けるような体制作りがぜひ必要である。」「近年女性の結婚年齢や出産年齢が上がり、相対的に出産の危険性が高まることになる。より安心して出産できる社会が実現するような体制作りが求められている」といった指摘をしています。
両判決とも実務の参考になろうかと存じます。