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No.148「交通事故と医療事故が競合して被害者に後遺障害が発生。被害者に損害賠償金を支払った加害者側保険会社の市立病院側に対する求償請求を認めた高裁判決」

福岡高裁宮崎支部平成18年3月29日判決 判例タイムズ1216号206頁

(争点)

  1. 医療行為の過失の有無
  2. 運転行為と医療行為の共同不法行為の成否
  3. 運転者と病院医師らの後遺障害発生に対する寄与度

(事案)

X保険会社(以下、X保険)は、平成3年6月、Aとの間で自動車総合保険契約を締結した。Aは、平成4年1月2日、B(昭和31年生まれの男性)に対し、全身打撲、胸部肋骨骨折等の重症を負わせる交通事故(以下、本件交通事故)を起こした。

Bは、同月16日、事故後に救急入院したC病院からY市が開設・運営するY市立病院(以下、Y病院)に転院した。

BはY病院で外傷性横隔膜ヘルニア等との診断を受け、同月24日に手術を予定されたが、同月20日夕方から翌21日にかけて、心窩部痛及び呼吸困難等を訴えるなど容態が急変し、同日未明に心肺停止に至った。Bは蘇生後に緊急手術を受けて一命を取り留めたものの、結局、四肢麻痺及び両眼失明の後遺障害が残存した。

その後、Bは、Aに対して損害賠償請求訴訟を提起し、その裁判上で、Bの損害賠償額が2億4199万5029円(既払金を含む)であることや、同額をAがBに支払うことなどを内容とする和解が成立した。そしてAとの間で上記保険契約を締結していたX保険がBに対し上記金額の保険金を支払った。

Xは、Yに対し、Y病院の医師の医療過誤のために損害が拡大し、本来Bに支払うべき金額を超える額の保険金の支払いを余儀なくされたとして本件訴訟を提起した。

原審(鹿児島地判平成16年9月13日、判時1894号96頁)は、Y病院の医師の過失及び後遺障害との因果関係を認め、医師の過失とAの運転上の過失とを共同不法行為とし、各自の負担部分としてはAが4割、Yが6割として、Xの請求を一部認容した。

XとY双方が控訴。

(損害賠償請求額)

保険会社の請求額:計2億0920万5965円
(内訳:保険会社が被害者に支払った額2億4199万5029円-交通事故だけによる損害賠償額158万9064円-自賠責保険による填補額3120万円)

(判決による請求認容額)

裁判所の認容額 :計1億2020万2982円
(内訳:(保険会社が被害者に支払った額2億4199万5029円-交通事故だけによる損害賠償額158万9064円)×0.5)

(裁判所の判断)

医療行為の過失の有無

裁判所は、Bの症状は1月16日、18日の時点で安定しており、緊急手術を実施しなかった過失及び摂食を許し、胃管挿入による胃内減圧を行わなかった過失はないが、医学的文献上、大量の臓器脱出による頻脈や呼吸困難などの重篤な症状が見られるときは緊急手術の適応になるとされているところ、呼吸困難等がBに発現した20日午後9時の時点で、医師らはBのヘルニア増悪を疑って、これに対する検査、処置を行うべきであり、遅くとも、脈拍及び呼吸数が増加した21日午前0時ころには、胸部X線写真撮影、血液ガス分析などの検査を行うべきであり、この検査結果に従い、直ちに胃管挿入、気管内挿管等の処置をすべきであったのに、これを怠った過失がある、と認定しました。

運転行為と医療行為の共同不法行為の成否

裁判所は、本件交通事故と本件医療事故は互いに競合し、Bの後遺障害という不可分一個の結果を招来し、この結果についていずれも相当因果関係を有するという関係に立つから、本件運転行為と本件医療行為は、民法719条所定の共同不法行為に当たり、各不法行為者(A及びY病院医師らの使用者であるY)は、被害者であるBの被った損害の全額について連帯して責任を負うべきものである、と判示しました。

運転者と病院医師らの後遺障害発生に対する寄与度

この点について裁判所は、本件のように自動車の運転行為と医療行為という異質な行為が、時間的に先後して関与し、不可分一個の損害が発生したという場合において、その寄与度を数量的に把握することは、事柄の性質上極めて困難というべきであるところ、損害の公平な負担という不法行為法の理念に照らして、上記各事情その他の本件に顕れた一切の事情を総合的に考慮するときは、本件運転行為と本件医療行為のいずれか一方が他方と比較して、本件後遺障害という結果発生に対して特に大きく寄与したと断定することはできないというべきである、とした上で、本件での寄与度は、双方5割と推認する、と判示しました。

そして、上記「裁判所の認容額」記載の支払いを命じる判決を言い渡しました。

カテゴリ: 2009年8月11日
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