今回は、一般的な適応を欠く施術を行う場合の説明義務に関連して病院側の損害賠償責任が認められた判決を2件ご紹介いたします。
No.134の事案では、関連事件として、市民病院を開設する市が患者とその保証人に対して168万0220円医療費の請求をしました。しかし、裁判所は、医療費のうち、エンボライゼイションの実施関連費用その他の医療費については、エンボライゼイション施術がその適応がなく、患者の適法な同意がないのに行われたものであるから、診療契約上の診療義務の適切な履行があったとはいえないし、患者に対する不適切な治療行為によって生じた患者の障害に対する治療及び看護等のために必要となった費用についても、市が患者に対する損害賠償として自ら負担すべき性質のものであるとして市の請求を認めませんでした。そして、結核に関する治療費2320円についてだけ、患者と保証人に支払を命じました。
No.135の事案では、死亡した患者が宗教上の理由から輸血を拒否し、あらかじめ「私は、輸血以外の十分な治療が施されたにもかかわらず、私が血を拒んだことによって生じるかもしれない死亡その他のいかなる損害に対しても、医師、病院当局、並びに病院職員の方々の責任を問うことはありません。」との記載がある輸血謝絶兼免責証書(本件証書)に署名・押印していました。そして病院側は、患者は本件証書によって損害賠償請求を放棄していると主張しました。しかし、裁判所は、この証書は患者が担当医からの不十分な説明に基づいて本件治療を選択することを決意して担当医に差し入れたものであり、担当医の過失は、患者から自己の疾患についての正確な説明を受けた上で本件治療の他に採り得る有力な治療方針を選択し得る機会を奪ったというものであるから、本件証書によって損害賠償請求権まで放棄したとみることはできないとしました。ただし、患者が輸血を受け入れていたならば死亡を免れることができた可能性は極めて高いとして、慰謝料額算定に際して考慮すべき事情であると判示しました。
両事案とも実務の参考になろうかと存じます。