今回は薬剤投与について医師の責任が認められた判決を2件紹介します。
それぞれの判決紹介にあたっては、一審判決も参照しました。No.120の判決の一審判決は神戸地方裁判所昭和60年3月29日判決(判例タイムズ559号255頁)で、No.121判決の一審判決は東京地裁昭和57年7月15日判決(判例タイムズ480号158頁)です。
No.120判決で、病院側は、患者に従前から聴力障害があったことを、損害算定にあたって、考慮すべきという主張をしました。患者の特異素因により損害が発生、拡大した場合に、公平の観点からその素因の損害に与える寄与度を考慮して、損害賠償を減額するという考え方が医療事故訴訟で採用されることはあるのですが、この判決の事案では、裁判所は損害額の減額を認めませんでした。
No.121判決は、判例時報1087号70頁によると、上告審で和解が成立したようです。
No.121判決では、「どうだい、具合は」という医師の発問では問診として不十分だという判断を示しつつ、「厳しい健康保険制度のもとで、多数の患者を短時間のうちに診療しなければならず、特に定型的な治療を反復継続することの多い耳鼻咽喉科開業医にとって、前記のような問診、観察、検討の有無を過失認定の基礎とすることは、難きを強いるもの・・・と考えられないこともない。しかしながら、患者から自発的に情報の申告がなされることが望ましいとしても、元来患者としては何が問題か(本件では、ストマイによるアレルギー反応の有無)が判らないのであり、事柄の重大性によっては、専門家である医師として、当面する問題についての情報を要領よく引き出すべきであるし、多忙の中でもそれは可能であるといえる。そして以上認定のところは、本件当時の耳鼻咽喉科開業医の水準を越えるものとはいえない」との判断が示されています。
どちらの判決も実務上の参考になるかと存じます。