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No.11 「脳動脈破裂予防術。多数回のクリップかけ直し等の過失を認定」

平成15年7月16日 名古屋高等裁判所判決

(争点)

  1. 手術の手技上の過失があったか

(事案)

被控訴人(事故当時58歳)が、控訴人(地方公共団体)の経営する病院において、同病院脳神経外科のA医師及びF医科大学脳神経外科助教授のB医師の執刀により、右内頸動脈と脳底動脈の2箇所の動脈瘤について、開頭術による動脈瘤頸部クリッピング術(注)の方法で脳動脈瘤破裂予防手術を受けたところ、脳梗塞が発症し、後遺障害(左片麻痺)が発生

(注)【動脈瘤】 ドウミヤクリユウ aneurysm  動脈が限局性に異常拡張を示し、瘤状にみえるものを動脈瘤という.病理学的には、動脈の全層で動脈瘤の嚢ができているものを真性動脈瘤といい、外傷や感染などにより動脈が傷害をうけ、血管壁の破壊により血腫を形成し、その血管周囲の血塊や結合織により拡張していて、瘤の壁が本来の動脈壁でないものを仮(偽)性動脈瘤と称している.したがって真性動脈瘤が破壊して部分的に仮性動脈瘤となる例もみられる.また臨床的には形によって、袋様の外観を示し、動脈の側壁に付着しているものを嚢状動脈瘤、紡錘状で動脈のある長さにわたって比較的び漫性に全周を包むものを紡錘状動脈瘤fusiform aneurysmという.本症は大動脈にも末梢動脈にも発生し、末梢動脈瘤peripheral aneurysmは部位により無名動脈瘤、鎖骨下動脈瘤、総・内・外頸動脈瘤などがあり、内臓領域でも腹腔動脈瘤、肝・脾・腎動脈瘤などがある.それぞれ粥状動脈硬化性、外傷性、炎症性、先天性などの原因で生じる

《クリッピング;clipping》  創縁の端を近づけるための、あるいは小さい個々の血管からの出血を防ぐための金属性の器具のこと
出典:CD-ROM最新医学大辞典スタンダード版(医歯薬出版株式会社)

(損害賠償請求額)

原審(名古屋地方裁判所)での原告(患者)側の請求額
9,347万9,115円(内訳:逸失利益5,130万0,708円+慰謝料2,200万円+付添看護料1,217万8,407円+弁護士費用800万円)

(判決による請求認容額)

●原審で裁判所が認めた額
8,307万6,506円(内訳:逸失利益4,389万8,099円+慰謝料2,000万円+付添看護料1,217万8,407円+弁護士費用700万円)

●控訴審で裁判所が認めた額
控訴棄却(原審で認めた額を維持)

(裁判所の判断)

A医師及びB医師に手術の手技上の過失があったか

避けるべきであるとされているクリップのかけ直しを、B医師が2本のクリップについて合計6回にわたってかけ直したことに起因して、右前脈絡叢動脈の起始部の近くで発生した屈曲、狭窄による右前脈絡叢動脈の閉塞の結果、被控訴人の脳梗塞が生じたと推測。 また、B医師がクリッピング終了時に、右前脈絡叢動脈の起始部に屈曲、狭窄が生じていないかの確認をしなかったこと、前脈絡叢動脈の血流をドップラー血流計で確認しなかったことを認定。

B医師のこれらの行為はいずれも過失に該当すると判示。

被告は、民法715条1項(使用者責任)に基づき、損害賠償責任を負うとした。

カテゴリ: 2003年12月25日
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