神戸地裁平成15年6月12日(判例時報1836号105頁)
(争点)
- 術後管理における医師の過失の有無
(事案)
患者A(死亡当時14歳)は、私立大学病院で嚢腫との診断を受け、手術方法として経蝶形骨洞到達法(ハーディ法)の説明を受けた。そして、その手術が可能な国立大学附属病院であるY病院に平成10年7月29日に入院した。
同年8月20日、Aに対する手術が施行された。そして、下垂体の奥の腫瘍を全て摘出した。
患者Aは8月20日、21日とも午後から夜中にかけて、不安や頭痛を訴えていたので、Y病院の担当医らは、ボルタレンと睡眠導入剤ドルミカムを採用してAの安静を保った。8月22日には、Aに付けられていた心電図モニターは外されたが、Aが不安と頭痛を訴えるので、担当医らはレンドルミンを内服させ、ドルミカムの点滴を行った。
8月23日午前3時の定期検温において、看護師がはじめてAが心停止、自発呼吸停止及び全身チアノーゼ状態になっているのを発見した。当直医師らが心肺蘇生措置を開始したが、Aは同日午前5時7分に死亡した。
(損害賠償請求額)
患者遺族(両親)の請求額:両親合計7800万円
(内訳:逸失利益4300万円+慰謝料2500万円+墳墓・葬祭費200万円+弁護士費用800万円)
(判決による請求認容額)
裁判所の認容額:両親合計6977万6458円
(内訳:逸失利益4257万6459円+慰謝料2000万円+墳墓・葬祭費120万円+弁護士費用600万円。端数不一致)
(裁判所の判断)
術後管理における医師の過失の有無
裁判所は、まず、Aの死亡原因について、鑑定結果や私的鑑定書などを総合して、髄膜炎による異常に、鎮静剤の併合投与による抑制作用があいまって死亡したと判断しました。
その上で、裁判所は、当時14歳で体重が33?であり、摘出手術の影響で髄膜炎、気脳症という合併症に罹患していたAに対し、Y病院の担当医らは手術後数日しか経過していない時点でレンドルミンとドルミカムを併合投与したのであるから、Y病院は、Aの体調に異常が存しないかについて、通常よりも重い監視義務を負っていたというべきであると判示しました。
その上で、本件では、Aのモニターが22日は外されており、しかも1時間ごとの定時巡回に行った看護師が初めて心停止、チアノーゼ状態の一部を発見しているのであるから、心電図モニターを装着していれば、もっと早い段階でAの異常を発見し、救命措置を施すことが可能であったといえるとして、Y病院の担当医らには、術後管理に過失が認められると認定しました。