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No.101「低酸素状態が続いていた胎児について、急速遂娩実施の遅れにより、重度脳障害の後遺症。医師の責任を認める判決」

平成15年7月9日富山地方裁判所判決(判例時報1850号103頁)

(争点)

  1. 女児の重度脳障害の原因
  2. Y医師の注意義務違反の有無

(事案)

X2(母)は、産婦人科医であるYが開設経営していたクリニック(以下Yクリニックという)を平成6年8月8日受診し、妊娠5週間、分娩予定日が平成7年4月12日と診断された。

X2は、平成7年4月19日5時ころ、陣痛のためYクリニックに入院し、同日9時46分ころ、病室にて分娩監視装置を装着され、その後、同日20時ころ、分娩室に入室し、同日20時50分ころ、子宮口全開となった。

この間、胎児心拍陣痛図所見では、20時46分ころから56分ころにかけて、ほぼ1分毎の間隔でみられる子宮収縮に伴い、遅発一過性徐脈が認められた。その後も周期的な遅発一過性徐脈の発生が続き、子宮口全開後分娩第二期開始から約2時間を経過した同日23時10分を過ぎた辺りから、胎児心拍数基線は次第に上昇するとともに基線細変動の減少がみられ、一過性徐脈の振幅も増大した。そして、同日23時51分ころ、X1がYにより娩出されたが、無呼吸・あえぎ状態で気管内挿管を有する重度の新生児仮死の症状に加え、頭蓋内出血を合併していた。X1は、Yクリニックにおいて酸素投与等の処置を受けたが、同月20日2時ころ、他の病院に転院されて治療を受けた。  X1は、重度脳障害による痙性四肢麻痺、小頭症、難治性てんかんを後遺し、肢体不自由、疾病による四肢体幹機能障害により、身体障害等級1級に認定されている。

(損害賠償請求額)

出生女児及び両親の請求額
1 出生女児につき金1億2328万7211円
 (内訳:付添看護料5872万8500円+後遺障害慰謝料2000万円+逸失利益3455万8711円+弁護士費用1000万円)

2 両親につき、それぞれ550万円
 (内訳:慰謝料500万円+弁護士費用50万円)

(判決による請求認容額)

裁判所の認容額
1 出生女児につき金8061万6760円
 (内訳:付添介護料3224万8845円+後遺障害慰謝料1800万円+逸失利益2486万7915円+弁護士費用550万円)

2 両親につき、それぞれ330万円
 (内訳:慰謝料300万円+弁護士費用30万円)

(裁判所の判断)

女児の重度脳障害の原因

裁判所は、胎児心拍陣痛図で、4月19日20時47分ころから出現した症状は、やがて安心出来ない状態の所見となり、2時間以上経過した同日23時10分を過ぎた辺りから、基線細変動の減少などの所見へと移行し、呼吸性アシドーシスが完全に回復できなくなり、代謝性アシドーシスを惹起した所見に至り、その結果、娩出直後のX1は、無呼吸、あえぎ状態が出現した上、くも膜下出血とともにまもなく痙攣が出現したと認定しました。そして、低酸素症が進行してX1の脳組織に対し不可逆的な病変を引き起こし、X1の重度脳障害を引き起こすに至ったと判示しました。

Y医師の注意義務違反の有無

裁判所は鑑定の結果などを踏まえて、Yは、同日21時47分ころの段階で、胎児が安 心出来ない状態であると疑い、子宮内胎児蘇生措置を試みて状況を注意深く観察し、急送遂娩が必要となる事態も考慮してその準備をすべきであったと判示しました。

また、Yは、23時10分を経過した時点において、直ちに急速遂娩を実施すべきであったとも判示しました。

そのうえで、Yが、同日21時10分ころ、助産師から電話で子宮口が全開した旨報告をうけた他は3回自宅にあるモニターで経過観察をするにとどまり、その後、分娩第二期が遷延し、胎児心拍陣痛図の所見で、安心できない状態であったにもかかわらず、自ら診察することはもちろん、助産師に対し子宮内胎児蘇生措置の具体的指示もしなかったこと、さらに同日23時10分ころ、分娩室に容態を確認しにいった際も、その病態の見極めに努めることもなく、急速遂娩もしなかったことから、Yは、胎児が安心できない状態であると疑い、子宮内胎児蘇生措置を試みて、状況を注意深く観察する義務を怠ったうえ、同日23時10分過ぎに直ちに急速遂娩を実施すべき義務を怠ったものと認定しました。

カテゴリ: 2007年8月 9日
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