平成15年1月29日広島高等裁判所松江支部判決
(争点)
- 医師の注意義務違反の有無
- 注意義務違反と左足関節部切断との因果関係の有無
- 損害及びその額
- 寄与度、過失相殺
(事案)
被控訴人(患者)は平成8年1月、左足指の治療のため、控訴人(病院)の医師の診察を受け、糖尿病性壊疽の診断を受け、通院治療(包帯の交換、抗生剤及び血糖降下剤の投薬、血糖値の検査等)を受けたが、インスリンの投与や左足部のX線撮影の検査は受けなかった。
被控訴人は同年2月に他院を受診したところ、左足部糖尿病性壊疽と診断された上、X線撮影の結果骨破壊があり骨髄炎を起こしていると診断されて入院し、2月23日に足指の切除手術を受け、3月4日に左足関節部の切断手術を受けた。
(損害賠償請求)
2258万1549円(うち逸失利益958万1549円+後遺障害慰謝料1100万円+弁護士費用200万円)
一審での判決による請求認容額 1604万9896円(逸失利益931万2370円と後遺障害慰謝料900万円の合計額に対して2割の過失相殺をした1464万9896円+弁護士費用140万円)
(判決による請求認容額)
1208万7422円(逸失利益931万2370円と後遺障害慰謝料900万円の合計額に対して4割の過失相殺をした1098万7422円+弁護士費用110万円)
(裁判所の判断)
争点1(医師の注意義務違反の有無)と争点2(因果関係)について
被控訴人の左足尖部はかなり深部まで細菌感染が進行していることを疑わせる症状が出現していたのであるから、医師としては、重篤な症状に至る可能性を考慮して、細菌感染の進行の程度、特に骨髄炎の有無等を確認するためエックス線撮影を実施し、血糖値を下げるとともに免疫力を強化してさらなる感染を防御するためインスリンを使用し、また、局所の安静・免荷を強力に指導するなどして、細菌感染による重篤な症状に至ることを予防すべき注意義務があったが医師はこれを怠ったとして、医師の過失(注意義務違反)を認定。
医師の注意義務違反がなければ、初診時の段階で仮に骨髄炎が発生していたとしても、本件のような左足関節部までの切断は回避することが可能であったとして、医師の過失と切断との間の因果関係を認定。
争点3(損害及びその額)と争点4(寄与度、過失相殺)について
被控訴人の長年の糖尿病歴、初診時の症状、容態等にかんがみると、医師による適切な診療を受けたとしても、少なくとも足指の切断を免れなかった可能性も全く否定できないこと、被控訴人が1月当時、自己の症状(左足の痛みや熱が出て寒気がすること)を医師に告げなかったこと等の事情を総合勘案し、過失相殺の法理を適用ないし類推適用して被控訴人の損害額から4割を減額すべきものと認定。